アキレス腱は、ふくらはぎの下腿三頭筋(腓腹筋(浅層)とヒラメ筋(深層))から構成され、踵骨に停止し、足関節の底屈に作用する人体の中で最も太い腱です。
動作としては、つま先立ち、ヒールレイズ(踵を上げ下げする運動)があります。
アキレス腱断裂は、文字通りアキレス腱が切れた状態のことです。
運動会、テニス、サッカー、バスケットボールでの受傷が多い印象です。
30~50歳のスポーツ愛好家に多い印象ですが、実際には20歳、28歳で多く、女性での発症のピークは40歳代という報告もあります。
原因
- 急激に下腿三頭筋(腓腹筋、ヒラメ筋)が収縮した時
具体的には、踏み込み、ダッシュ、ジャンプ動作などを行った際に断裂することがあります。 - 急激に下腿三頭筋(腓腹筋、ヒラメ筋)が引き延ばされたりした時
ジャンプからの着地動作などによって、断裂が起こります。 - アキレス腱の退行変性(老化現象)
アキレス腱の退行変性(老化現象)が基盤にあると考えられています。アキレス腱に炎症があったり、小さな傷が腱に入っていて力学的に弱くなっている状態です。腱が変性する原因として、日常的な運動や体重増加による負担の増加などの関与が指摘されていますが、脂質代謝異常、ステロイド薬の使用でも起こりやすいと報告されています。
若年層での断裂はスポーツによる受傷が多く、高齢層での断裂はスポーツ以外の日常生活活動中に受傷することが多いようです。
スポーツ選手では断裂する少し前からアキレス腱周囲に違和感を自覚している例も多いようです。
症状
受傷時に、「ふくらはぎをバットで叩かれた感じ」とか、「ボールが当たった感じ」などの衝撃を感じることが多く、「ブチっと音がした」と断裂音を自覚することもあります。
受傷直後は体重をかけることができずに転倒したり、しゃがみ込んだりしますが、しばらくすると歩行可能になることも多いです。
ただし、歩行は可能であっても爪先立ちはできないのが特徴です。
アキレス腱断裂があっても足関節は動かすことができます。
診断
- 問診
受傷機転に関する問診を行います。 - 圧痛のチェック
アキレス腱断裂部に陥凹を触知し、同部位での圧痛をチェックします。 - hompsonテスト
うつ伏せで膝を直角に曲げた状態でふくらはぎを揉み足関節の動きを観察します。 正常では、足関節が底屈しますが、アキレス腱断裂があると底屈しなくなります。 - レントゲン
ほとんどの場合、異常はありませんが、踵骨剥離骨折の有無をチェックします。 - エコー
簡便にアキレス腱断裂をチェックすることが可能です。動かしながら撮影できます。断裂部位がどの程度離開しているかなどもチェックします。 - MRI
治療の選択に必要であれば撮影することもあります。
セルフチェック
- アキレス腱断裂部の痛みを自覚し、陥凹を触知できる。(腫れがひどい場合には陥凹が触知しにくいこともあります。)
- 立ち上がり、歩行は可能だが、爪先立ちはできない。
症状が下腿の肉離れと似ているため見逃されてしまうこともあり注意が必要です。
治療
保存的治療、外科的治療とも多種多様な治療方法が行われています。
どの方法でも治癒につながることがわかっていますがそれぞれの特徴があります。
保存的治療
ギプスや装具を用いて治療を行います。
足関節は底屈で初期固定を行います。
- メリット:入院の必要がない、傷が残らない、術後感染の心配がいらないことです。
- デメリット:再断裂率、長期固定による深部静脈血栓症(DVT)のリスクの問題です。
保存的治療では再断裂の確率がやや高いと従来から報告されていますが、最近はギプス固定期間を短くし、早期に適切に体重をかけることで再断裂率は手術療法と同等程度となってきているようです。
治療後のパフォーマンス面で、保存的治療ではアキレス腱が少し伸びた状態でつながることが多いため、力がうまく伝わらないという報告もあります。
外科治療(手術療法)
断裂したアキレス腱を縫合します。
縫合方法は、通常法、経皮的、半経皮的、エコーガイド下など様々な方法があります。
縫合時にPRPを併用すると治癒が促進されるという報告もあります。
- メリット:しっかりと腱を縫合するため、ギプス固定期間が短縮され、早期の社会復帰が可能となります。職場への復帰は手術療法の方が早いと報告されています。
- デメリット:麻酔方法にもよりますが入院が必要なことが多い、手術による感染リスクがあるなどです。
保存的治療、外科治療いずれの場合でもリハビリテーションは重要となります。
治療方法、スポーツ種目によってもリハビリテーション内容は変化します。
治療後のスポーツ復帰
治療開始後4ヶ月程度で軽い運動は可能となりますが、全力でのスポーツ活動の再開には6ヶ月程度はかかることがほとんどです。
特に最初の3ヶ月程度ではアキレス腱に過度の負荷がかかると際断裂するリスクが高いため注意が必要です。
ストレッチをしっかり行い、6ヶ月までは瞬発力を伴う動作は控えた方が良いでしょう。
保存的治療でもスポーツ復帰は十分可能です。
しかし、手術療法ではヒラメ筋の萎縮が少なく、早期にふくらはぎの筋力の回復が得られるため、スポーツ選手には手術をお勧めすることも多いです。
スポーツ再開に関しては種目、スポーツレベル、手術の種類などにも影響を受けるため担当医師に確認しましょう。
予防
運動前にはストレッチ、十分なウォーミングアップを行いましょう。
運動前にしっかり深部体温を上げることで筋・腱の伸張性は改善されます。
アキレス腱に漠然とした痛みがある場合は腱炎の可能性もあり注意が必要です。
アスリートの場合はこの段階でMRIなどをチェックする場合もあります。
当院でできること
- 身体所見、レントゲン、エコー検査からの診断
- 投薬、注射、補装具を使用した保存的治療
- 専門スタッフによるリハビリテーション
- 手術術後の回復リハビリテーション
診断から治療、その後のリハビリまで患者さんの症状に合わせて対応しておりますので、ご相談下さい。
当院でできないこと
当院では、MRIでの精査、手術加療はできません。
必要であれば専門外来に紹介させていただきます。
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