頚椎とは
頚椎とは首のことで、第1頚椎~第7頚椎で構成され、脳から連続する頚髄は椎体後方の脊柱管を下降し、8本の神経根(C1~8)が分節性に分岐しています。
頚椎の椎体間には椎間板が存在し、クッションの役割をしています。
椎間板の中にあるゼリー状の髄核が、周囲の線維輪を破り、外に飛び出した状態が椎間板ヘルニアです。
突出した椎間板が頚髄、神経根を圧迫したり、周囲で炎症を引き起こすことで強い痛み、しびれ、運動・知覚障害などを引き起こします。
原因
ヘルニアによる物理的刺激(脊髄、神経根を直接圧迫)とヘルニア周囲の化学的刺激(損傷した椎間板から神経を刺激する様々な化学物質が放出される)により症状が起こると考えられています。
ヘルニアが起こる要因としては、加齢、外傷、遺伝などがあります。
加齢
年齢を重ねていきますと、クッションの役割をしている椎間板中心部のゼリー状の髄核では、水分量が減ってくるなどの質の低下(変性による弾性力の低下)が起こります。
椎間板には日常生活で常に負担がかかっており、その積み重ねもしくは不適切な負担がかかることにより椎間板周囲の線維輪に亀裂が生じ、内部の髄核が線維輪の外部に突出する椎間板ヘルニアを引き起こすことがあります。
突出したヘルニアが脊髄や神経根を圧迫して症状が現れます。
外傷
椎間板の変性が生じていなくても交通事故、転落事故などで大きな外力が頚椎にかかった場合には線維輪に亀裂が生じ、内部の髄核が線維輪の外部に突出する椎間板ヘルニアを引き起こすことがあります。
遺伝
近年、椎間板ヘルニアの原因の一つには遺伝も関与することが判明してきました。
ヘルニアになりやすい体質の人と、そうでない人がいるということです。
特に若い人は遺伝背景の関与があるという結果も出ており、今後の研究でさらに解明されていくと思われます。
さらにいえば、椎間板ヘルニア後に椎間板高が減少することで脊髄・神経の通り道である脊柱管・椎間孔が狭窄したり、頚椎の不安定性から変形が進むことで変形性頚椎症となることも長期的には問題です。
症状
症状は、以下の2つに分けられます。
- ①脊髄本幹を圧迫することによる脊髄症(頚髄症)
- ②脊髄からの枝(神経根)を圧迫することによる神経根症
また、この2つが同時に発症する場合もあります。
①脊髄症の場合
脊髄症の場合には、以下のような症状が現れます。
- 後頚部の痛み
- 手足のしびれや感覚異常(脊髄症の場合には下肢の症状も出ることがあります)
- 手先の細かな動きの不自由(ボタンをかけにくい、箸が使いにくい、グーパーしにくい)
- 歩行障害
- 排泄機能の障害
②神経根症の場合
神経根症では以下のような症状が現れます。
- 左右どちらかの腕~指、肩甲骨周囲のしびれ、痛み
- 朝、起床時に上肢、肩甲骨周囲のしびれで目が覚めてしまう
- 頭上に手を乗せている姿勢が楽
- 手が下に下がった状態、頚部の動きで上肢のしびれ、痛みが出る
- 頭痛やめまい
ヘルニアが左右両側に突出している場合には両側の症状が出る場合もあります。
障害されている髄節、神経根部位に一致した症状が認められるのも特徴です。
例えば、第5/6頚椎での頚椎椎間板ヘルニアによるC6神経根症状であれば、肩外側あたりから母指にかけての痛み、しびれを自覚し、手関節を背屈する筋力が低下しやすくなります。
診断
身体所見
上肢痛、しびれ、知覚異常、筋力低下、反射などをチェックして局在診断を行います。
(下肢症状がある場合には頚髄症も考慮する必要があります。)
レントゲン
椎間板高の減少、椎間孔の状況をチェックします。(椎間板自体は評価できません)
また、前後屈での動態撮影を追加することで不安定性も合わせて評価します。
MRI
椎間板の状態、脊髄、神経根の圧迫状況、脊柱管を構成する靭帯の評価を行います。
頚椎椎間板ヘルニアの診断確定には必要になることが多い検査です。
セルフチェック
下記のような症状が気になる方は整形外科専門医師の診察を受けてみましょう。
- 肩関節の可動域は問題ないが上腕外側から前腕にかけての痛みやしびれ
- 手を下に垂らしていると痛みがあるが、頭の上に乗せていると楽
- 朝方、上肢の痛み、しびれで目が覚めてしまう
治療
頚髄症は、その進行度や重症度で手術が必要になる場合もありますが、頚椎椎間板ヘルニアによる頚椎神経根症は保存的治療で改善できることがほとんどです。
(ヘルニアは自然に吸収されることが多いです。ただし、吸収されにくいタイプもあります。)
保存的治療
装具療法
頭部の重量を胸骨に伝えることで頚椎への負担を減らす治療です。
症状が軽度であれば、患部を安静にし、頚椎カラーなどの装具を使って症状の悪化を防いでいきます。
薬物療法
炎症を抑える消炎鎮痛剤やしびれを改善するビタミンB12、筋肉の緊張をほぐす筋弛緩剤などのお薬を使用し、痛み、しびれを軽減し、疼痛が緩和するのを待つ治療です。
神経痛が強い場合は神経痛に効果が期待できる薬を使用しますが、導入時に眠気、ふらつきなどの副作用が出ることもあり、注意しながら使用する必要があります。
物理療法、理学療法(リハビリテーション)
牽引療法(頚椎にかかっている圧力を、器械、セラピストが引っ張ることで軽減していきます)、電気・温熱療法(血行を促進し筋肉の緊張をほぐします)、その他、日常生活指導、頚部のストレッチ・リラクセーション、アライメント・姿勢の調整を行うことで痛みの軽減をし、疼痛が緩和するのを待つ治療です。
ブロック治療
神経根ブロックといい、現在の症状から圧迫されている神経根が予想できる場合、エコー、レントゲンでのガイド下に注射を行うこともあります。(手術前の部位決定にも使用されます。)
保存的治療では痛みが緩和しない場合、また日常生活に支障をきたすほどの症状が出ている場合、脊髄障害が高度な場合は、手術による治療が必要となり、専門医への御紹介も検討させていただきます。
外科的治療
外科的治療には、手術療法(前方除圧固定術、椎弓形成術、後方除圧固定術など)が当てはまります。
手術では脊髄、神経根への圧迫を取り除く除圧術が行われ、脊椎が不安定な場合には椎間固定を併用する場合もあります。
前方除圧固定術
首の前方から手術を行います。
椎体の骨棘や椎間板を削ることによって神経の圧迫を取り除く手術です。
椎弓形成術
首の後方から手術を行います。
頚椎の後ろの部分である椎弓という部分を開き、脊柱管を広げ、脊髄の圧迫を取り除く手術です。
ヘルニアに関しては処置せず、神経の除圧のみ行う場合もあります。
後方除圧固定術
椎弓形成術と同じく後方からの手術で、椎弓形成術に加えて、椎体をスクリューで固定する手術です。
近年では、内視鏡を用いた低侵襲な椎間孔部の除圧手術も行われています。
予防
頚椎椎間板ヘルニアを予防するためには、日頃の首への負担や姿勢を見直していくことが必要です。
近年ではストレートネック、スマホ首なども注目されていますね。
首を過度に曲げたりせず、猫背など頚椎に負担がかかる姿勢も改めていきましょう。
加齢による椎間板の変性は誰にでも起こるものですが、日常生活を過ごす中で椎間板ヘルニア、変形性頚椎症に至るようなリスクを減らしましょう。
注意
頚椎椎間板ヘルニアと似た症状を引き起こす疾患に変形性頚椎症、転移性骨腫瘍も可能性としてはあり、悪性腫瘍などの既往がある患者さまでは注意が必要な場合もあります。
遺伝的に脊柱管が狭い方では、軽微な頭頚部外傷後に症状が引き起こされる場合もあり、注意が必要です。(中心性頚髄損傷)
椎骨動脈解離
急激な片側の後頭部痛で発症することがあり、頚椎疾患と類似症状をきたすことがあります。
頚椎レントゲン、MRIでは異常を認めず、脳外科専門医受診も考慮が必要な疾患です。
当院でできること
- 身体所見、レントゲンからの診断
- 投薬、注射、補装具を使用した保存的治療
- 専門スタッフによるリハビリテーション
- 手術術後の回復リハビリテーション
診断から治療、その後のリハビリまで患者さんの症状に合わせて対応しておりますので、ご相談下さい。
当院でできないこと
当院では、MRIでの精査、手術加療はできません。
必要であれば専門外来に紹介させていただきます。
- 変形性頚椎症
- 頚椎椎間板ヘルニア
- ストレートネック(スマホ首)
- 頚椎捻挫(むち打ち損傷)、外傷性頚部症候群、寝違え
- 胸郭出口症候群
- 肘部管症候群
- テニス肘
- ゴルフ肘
- 野球肘
- 肘内障
- 肩腱板損傷・断裂
- 肩石灰沈着性腱板炎
- 肩関節周囲炎
(四十肩、五十肩) - 凍結肩(frozen shoulder)
・拘縮肩 - 頚肩腕症候群・肩こり
- ギックリ腰(急性腰痛症)
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 腰部脊柱管狭窄症
- 脊柱側弯症
- 胸腰椎圧迫骨折
- 腰椎分離症・分離すべり症
- ガングリオン
- ドケルバン病
- ばね指
- 母指CM関節症
- 指変形性関節症(へバーデン結節、ブシャール結節)
- 手根管症候群
- ギオン管症候群(ギヨン管症候群、尺骨神経管症候群)
- 突き指・マレット指
- 膝半月板損傷
- 膝靭帯損傷
- オスグット病
- 変形性膝関節症
- 足関節捻挫
- アキレス腱断裂
- 外反母趾
- 有痛性外脛骨
- モートン病(モートン神経腫)
- 足底腱膜炎
- Jones骨折(ジョーンズ骨折・第5中足骨近位骨幹部疲労骨折)
- 足部骨端症
- 扁平足(flat foot)・開張足
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