肩の腱板は、肩関節(肩甲上腕関節)周囲を取り囲むように存在する4つの筋腱の総称で、前方に肩甲下筋、上方に棘上筋、棘下筋、後方に小円筋が存在し、それぞれが肩甲骨と上腕骨を3次元的に連結することで肩関節の安定性、可動性に重要な役割をしています。
石灰沈着性腱板炎は腱板・腱板周囲に石灰(リン酸カルシウム結晶)が沈着し、痛み、可動域制限が生じている病態で、中高年の女性に多く見られます。
男女比は、1:2と報告されています。
急性期には痛みが強く、夜間に救急外来を受診するほどの痛みをきたすこともあります。
原因
腱板・腱板周囲の石灰(リン酸カルシウム結晶)により急性炎症が生じる事が原因です。
時間経過により石灰の形状は固く変化します。
濃厚ミルク状から練り歯磨き状、そして石膏状と変化していきます。
石灰が溜まって膨らんでくると痛みが増強し、腱板から滑液包内に破れ出る時に激痛となるようです。
肩に生じた石灰の一般的な経過
- 石灰の形成期:腱の一部が変化し、石灰化が起こり、少しずつサイズが大きくなります。
- 石灰の定着期:サイズ変化はほぼなく、痛みは、あったりなかったりします。
- 石灰の吸収期:炎症が強く起こり、免疫細胞が石灰を吸収します。
- その後:腱の再構成がおこります。
腱板・腱板周囲に石灰(リン酸カルシウム結晶)が沈着する事が痛みの原因ではありますが、そもそも「なぜ石灰が腱板に沈着するのか?」は、はっきりとは解明されていません。
想定されている原因
腱細胞の線維軟骨化、内軟骨骨化が生じるという説(肩峰下と上腕骨の接触刺激)
骨化にはカルシウムの沈着が必要となるためカルシウム塩が沈着します。
体内のカルシウムバランスの影響
体内では、骨に必要なカルシウム量を維持するために腸からの吸収と尿からの排泄でカルシウムのバランスをとっています。
尿から排泄しきれなかったカルシウムは体内(関節周囲の腱、靭帯、血管内膜など)に蓄積してしまう事があります。
蓄積していること自体では症状は起こりませんが、何らかの原因で異物反応が起こると自己防衛機能が働き、炎症が起こることで痛みが発生します。
脱水状態では症状が発症しやすい傾向があるようです。
自己防衛反応は若年者では強く、激痛になりやすい傾向があるようです。(鎮静化は早いです。)
高齢では、自己防衛反応は弱いため激痛にはなりませんが、症状が長引く傾向にあるようです。
石灰は自然に消失することもよくあります。
内分泌疾患との関連
糖尿病、甲状腺疾患、エストロゲン代謝異常などの内分泌疾患との関連も考えられます。
食事の影響
石灰化を起こしやすい物質としてリンが注目されています。
リン含有量が多いものとして、乳製品、スルメ、干しエビ、おやつ、食品添加物があります。
石灰沈着にコーヒーの関与が指摘されていますが、コーヒーそのものよりはリンを多く含むミルクなどの乳製品が関与している可能性があります。
その他、カップラーメン、冷凍食品など、食品添加物を多く含む食品の摂取は減らした方が良さそうですね。
肉体労働、運動との関連性
肉体労働、運動との関連性については、現状で指摘されていません。
症状
肩周囲の痛み、運動障害、睡眠障害などが起こります。
夜間に突然生じる肩の激痛が初発症状のことが多いです。
痛みのために睡眠が妨げられ、夜間に救急外来に受診するケースもあります。
痛みは安静時にも起こり、関節を動かすことが困難になります。
痛みの程度は、肩関節周囲炎(四十肩、五十肩)よりも強い印象で、発症後1ヶ月程度強い症状を来す急性型、中等度の症状が1~6ヶ月継続する亜急性型、運動時痛などが半年以上継続する慢性型があります。
腱板・腱板周囲に慢性的に石灰沈着している場合もあり、無症状でたまたまレントゲンをとって石灰沈着が見つかることもあります。
症状がなければ経過観察で良いでしょう。
診断
問診
夜間、安静時の痛みの有無、どのような動作で痛みが出るかを確認します。
身体所見のチェック
圧痛部位、可動域、疼痛誘発テストなどを行います。
レントゲン
腱板・腱板周囲部に石灰沈着を認め、症状を認めていれば診断が確定します。
正面像のみでは石灰沈着が骨と重なり、診断が困難なことがあるため、通常は複数枚撮影を行います。
肩の痛みでレントゲンを撮影すると、約7~17%に石灰沈着を認めたという報告があります。
逆に、石灰沈着があっても約50%は無症状という報告もあり、痛みがない場合でも石灰沈着は生じている可能性があります。
肩の石灰沈着自体は3~10%程度に認め、それほど珍しい病態ではありません。
エコー
石灰沈着部位の正確な位置、サイズ、石灰が柔らかいのか硬いのかはある程度確認が可能です。
同時に腱板、上腕二頭筋長頭の状態(損傷、炎症状況)もチェックします。
MRI
より詳細に腱板損傷チェックなどを確認するために提案する場合があります。
急性期は、偽痛風、痛風、化膿性関節炎との鑑別が必要となり、血液検査、穿刺液の結晶検査、培養検査を追加することもあります。
少し時間の経ったものは、肩関節周囲炎、腱板断裂との鑑別が必要です。
治療
保存的治療
保存的治療の有効率は3ヶ月で約73%と報告されています。
安静保持
急性期には、三角巾、アームスリングなどで安静にし、アイシングを行います。
投薬
消炎鎮痛剤、弱オピオイドなどを使用して痛みをコントロールします。
胃薬(H2ブロッカー)、ダイドロネルが石灰の減少に有効であるという報告があります。
作用機序ははっきりとは解明されていませんが、副甲状腺細胞、骨格筋中の血管のH2受容体に作用して石灰減少に作用するのではないかと想定されています。
注射
急性例では、激痛を早く取るためにエコーガイド下に針を刺して、石灰を吸引して取り除く方法もあります。(穿刺してミルク状の石灰を吸引します。)
また、痛み止め、ステロイドなどの滑液包内注射も有効です。
体外衝撃波治療
尿路結石の治療などに使用され、石灰沈着にも治療効果に期待がもたれています。
一部は保険適応外の治療となります。
リハビリテーション
急性期のリハビリ介入は痛みが強すぎるため困難で安静が必要ですが、症状が緩和傾向となったら温熱療法(ホットパック、入浴など)、運動療法(拘縮予防、筋力強化、肩関節の安定性獲得)などのリハビリテーションを行います。
外科治療
ほとんどの場合は保存的治療で軽快しますが、亜急性型、慢性型では、硬く膨らんだ石膏状の石灰沈着が肩の運動時に周囲組織と接触し、炎症がなかなか消失せずに痛みが継続する事があります。
痛みが強く、肩の運動に支障がある場合には手術で摘出することもあります。
下記に該当する場合、保存的治療に抵抗することが多いという報告もあり手術を提案する場合があります。
- 両肩の石灰沈着がある
- 石灰の量が多い
- 肩前方の石灰がある
- 水腫の合併がある
本疾患の治療目標は最短で炎症、痛みの強い急性期を乗り切ることとも言えそうです。
強烈な痛みがある場合は、無理をせずに、整形外科を受診しましょう。
当院でできること
- 身体所見、レントゲン、エコー検査からの診断
- 投薬、注射、補装具を使用した保存的治療
- 専門スタッフによるリハビリテーション
- 手術術後の回復リハビリテーション
診断から治療、その後のリハビリまで患者さんの症状に合わせて対応しておりますので、ご相談下さい。
当院でできないこと
当院では、MRIでの精査、手術加療はできません。
必要であれば専門外来に紹介させていただきます。
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