橈骨輪状靱帯が外れかかったり(亜脱臼)、回外筋が関節に挟まったりすることにより肘関節外側の痛み、可動域制限を起こす病態です。
「肘・肩の脱臼をしたかもしれない、突然痛がって腕を動かさなくなってしまった。」
このような訴えで親御さんがお子さんを連れて来院されることが多いです。
6歳くらいまでのお子さんが手を引っ張られたり、何かにぶら下がったりした後に、痛がって腕を下げたままで動かさなくなり来院されるケースが典型的です。
好発年齢は小学校入学前のお子さんで、女児にやや多い傾向です。
原因
「ちょうだい」の動きとその逆のように、手のひらを上下させる動き(前腕を内側・外側に回す)の際には、橈骨頭(前腕骨近位母指側)が回る動きをします。
その前腕の回内外運動(前腕を内側・外側に回す)を支える役割をするために、橈骨輪状靭帯が尺骨近位部から半ループ状に存在し、橈骨頭頚部を支えていますが、小児の骨格は発達途中であり、橈骨頭頚部のくびれが浅く、しっかりとは固定されていません。
つまり、ループの輪が緩い状態です。
そのため、腕を引っ張られたりすることが原因で関節の隙間が広がり、橈骨頭がループの輪から抜けかけてしまっている状態となり、輪状靭帯の亜脱臼を起こすことがあります。
広がった関節に回外筋が挟まったりもすることもあるようです。
成長に伴い骨格が安定すると、肘内障の頻度は物理的に減少します。
起こりやすい状況
- 親子で手をつないで歩いている際、子供が転びそうになり、とっさに手を引っ張った。
- ご家族、子供同士で遊んでいる時に手を引っ張られる形になった。
- 鉄棒、うんてい、歩行時にご家族と左右の手をつないでぶら下がった。
- 着替えを手伝う際に腕を引っ張ってしまった。
などが典型的です。
また、乳児では、寝返りで起こることがあります。
寝返りをして首を持ち上げたりするときに肘、腕が体の下になり、腕が引っ張られるような形になっている可能性が考えられます。
どのような状況で起こったか分からないケースも
どのような状況で起こったかはっきり分からないケースが約20%もあります。
親御さんの目が離れていたり、ご本人がどうなったかは説明できないこともこの年代では多いです。
「子供が突然泣いていたが、転倒したのかは不明」、「いきなり泣いて、床に寝転んでいた」、「手を動かさないため、肩が外れたかもしれない」と来院することもあります。
症状
手、肘、肩などの痛み
実際には肘の疼痛がメインですが色々な部位を痛がることもあります。
痛みから泣き出す子供が多いです。
経過で痛みは軽減し、安静時の疼痛はほとんどありません。
肘関節の可動域制限
輪状靭帯の引っかかりで疼痛があり、肘を動かせない状態です。
腕を動かすと肘周囲が痛むため、肘の安静を保つような姿勢(だらんと垂らした状態)で来院することがよくあります。
手、肩関節は実際には問題ないですが、肘に響くため動かしたがらないことが多いです。
診断
受傷時の状況(問診)と、肘をやや曲げた状態で下げたままにして、痛がって動かそうとしない場合、肘内障を疑います。
典型的な受傷機転(起こった状況)であれば特に検査は必要ないことが多く、そのまま治療します。
骨折、脱臼などの可能性から画像検査でのチェックが必要な場合
- 転倒、落下して手をついたりするなどによって受傷した場合
- 肘関節周囲の腫れ、打撲、皮下出血などの外傷性変化、手指の知覚異常がある場合
- 安静時の痛みが強い場合
レントゲン、エコーで輪状靭帯、回外筋の状況をチェックしたり、関節周囲の内出血、骨折をチェックすることも考慮します。
治療
来院時にはすでに整復されていることもよくあります。(自然整復)
徒手整復
診断したら徒手整復を行います。
特に麻酔も必要なく、通常は数秒程度で終了します。
整復方法には回内法、回外法、橈骨頭圧迫などいろいろありますが適宜使用します。
輪状靱帯が整復される感覚(クリック)があり、その瞬間は痛みで泣いてしまうことが多いですが、その後、即座に痛みがなくなり、子供さんがケロッとした顔で腕を普通に使うようになります。
整復後には、手を動かせるか確認します。
「おもちゃを持つ」、「バンザイ」、「携帯電話でもしもし」などの方法で確認します。
整復後は特に安静の必要はなく、通常通り使用してもらって大丈夫ですが数日は鉄棒、手を引っ張る動作はやめておいていただくことをお勧めします。
肘内障は10%弱程度の頻度で再発します。
整復術をしても解消されない場合、少し時間を空けて再度整復を行うことが多いです。
肘内障なのかチェックする方法
- 転倒などの外傷がないかをチェック
肘内障では皮下出血、腫れは通常ありません。肘周囲に腫れ、皮下出血がある、指の知覚、色がおかしい、肘を動かしていない時でも痛がる(安静時痛)などがあれば骨折の可能性も考慮します。 - バンザイできるかチェック
肘内障ではできないことが多いです。
病院受診がどうしても困難な場合の整復方法
明らかな外傷、腫れなどがなく肘内障が強く疑われる場合で、病院受診がどうしても困難な場合の整復方法は下記の通りです。
骨折の場合には整復操作で骨折部がずれる可能性もあるため、本来は親御さんによる整復操作はお勧めしません。自己責任でお願いします。
- 回内法
肘関節を軽く曲げた状態で橈骨頭を押さえながら手のひらが下向きになるように腕を回内させる。 - 回外法
肘関節を軽く屈曲した状態で橈骨頭を押さえながら手のひらを上向きにして、さらに肘を曲げる。
いずれの方法でもコクッと輪状靱帯が整復される感覚があり、その瞬間は痛みで泣いてしまうことが多いですが、その後、即座に痛みがなくなり、子供さんがケロッとした顔で腕を普通に使うようになります。
予防
初回肘内障の有効な予防方法はありません。
肘内障は10%弱程度の頻度で再発しますので、再発予防は考慮しても良いでしょう。
腕を引っ張らないことが大切です。
- 変形性頚椎症
- 頚椎椎間板ヘルニア
- ストレートネック(スマホ首)
- 頚椎捻挫(むち打ち損傷)、外傷性頚部症候群、寝違え
- 胸郭出口症候群
- 肘部管症候群
- テニス肘
- ゴルフ肘
- 野球肘
- 肘内障
- 肩腱板損傷・断裂
- 肩石灰沈着性腱板炎
- 肩関節周囲炎
(四十肩、五十肩) - 凍結肩(frozen shoulder)
・拘縮肩 - 頚肩腕症候群・肩こり
- ギックリ腰(急性腰痛症)
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 腰部脊柱管狭窄症
- 脊柱側弯症
- 胸腰椎圧迫骨折
- 腰椎分離症・分離すべり症
- ガングリオン
- ドケルバン病
- ばね指
- 母指CM関節症
- 指変形性関節症(へバーデン結節、ブシャール結節)
- 手根管症候群
- ギオン管症候群(ギヨン管症候群、尺骨神経管症候群)
- 突き指・マレット指
- 膝半月板損傷
- 膝靭帯損傷
- 子どもの成長痛
- オスグット病
- 変形性膝関節症
- 足関節捻挫
- アキレス腱断裂
- 外反母趾
- 有痛性外脛骨
- モートン病(モートン神経腫)
- 足底腱膜炎
- Jones骨折(ジョーンズ骨折・第5中足骨近位骨幹部疲労骨折)
- 足部骨端症
- 扁平足(flat foot)・開張足
- 関節リウマチ
- 高尿酸血症と痛風発作
- ロコモティブシンドローム
- 骨粗鬆症
- グロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)
- 大腿臼蓋インピンジメント症候群(FAI)
- 股関節唇損傷
- 変形性股関節症
- 大腿骨近位部骨折
- 運動器不安定症
- フレイル
- サルコペニア
- モヤモヤ血管治療(動注治療)のご案内
- PFC-FD™療法(再生医療、バイオセラピー)のご案内
- ハイドロリリース・プロロセラピー(エコーガイド下)
- 労働災害保険(労災)での受診
- 交通事故での受診
- 第三者行為での受診