肩周囲には肩甲上腕関節、肩鎖関節、胸鎖関節などの関節が存在するほか、関節構造を持たない機能的な関節として肩甲胸郭関節、第2肩関節(肩峰下滑液包:SAB)が存在します。
肩の腱板は、肩関節(肩甲上腕関節)周囲を取り囲むように存在する4つの筋腱の総称で、前方に肩甲下筋、上方に棘上筋、棘下筋、後方に小円筋が存在し、それぞれが肩甲骨と上腕骨を3次元的に連結することで肩関節の安定性、可動性に重要な役割をしています。
腱板損傷・断裂とは
腱板損傷・断裂は、肩甲骨と上腕骨をつなぐ腱板が損傷・断裂している病態です。
転倒、事故、スポーツなどによる外傷性の腱板損傷・断裂もありますが、典型的には50~60代以降に多く発症し、肩周囲の痛み、可動域制限、筋力低下などが起こります。
70歳以降では、肩の症状は特に自覚していなくても自然経過で腱板が損傷・断裂しているケースも多くありますが日常生活には支障がないことも多いです。
腱板損傷・断裂していても特に症状を自覚しないケースもあります。
原因
肩関節周囲の骨軟骨、関節唇、腱板を含めた軟部組織が加齢によって変性し、柔軟性、強度が低下していること、また長期間に及ぶ肩への負担が原因となる場合が多いようです。
腱板組織の変性が関与する中高齢者スポーツで受傷する多いです。
明らかな外傷によるもの:約50%
急性断裂(転倒、事故、スポーツなど)が明らかな外傷にあてはまります。
- 転倒時の肩強打による直達外力での受傷:アメフト、ラグビーなど
- オーバーヘッドスポーツによる肩の使用過多:水泳、サーフィン、投球動作など
日常生活動作によるもの:約50%
変性断裂(荷物の持ち上げ、運搬、捻り動作など)が挙げられます。
- 抵抗にさからっての肩関節回旋外力:物を持った状態で肩を捻る動作など
- 手をついた際に肩関節に圧迫力が働き、慢性的に腱板のインピンジメント(衝突、擦り切れ)を起こした場合
症状
腱板損傷・断裂の状況で症状は、痛み、可動域制限、筋力低下などさまざまです。
- 安静時の肩痛
仰臥位で寝ているだけなのに肩がうずくようになります。(夜間痛) - 運動時に肩痛、ゴリゴリと音がなり、ひっかかりを感じる
洗髪、洋服の着脱、布団を掛ける動作で痛む、インピンジメント、クリックが起こります。 - 可動域制限
痛み、ひっかかりなどが原因となり起こります。洗髪できない、洗濯物を干せないなどの症状を伴います。 - 筋力低下
反対の手でサポートすると挙上すればできますが、自力では挙上できなくなってしまいます。 - 上肢挙上での動作が困難になる
慢性期には痛みは緩和しますが、洗濯干しなど上肢挙上での動作が困難になります。
これらの症状は、肩関節周囲炎(四十肩、五十肩)と似ていて、安静を保持することにより症状が落ち着くことがあるので治療せずに放置してしまう患者さんが多くいます。
症状が持続するようであれば、腱板損傷・断裂も考え整形外科医師に相談してみましょう。
また、腱板損傷断裂ではありませんが、似たような病態をきたす疾患として上腕二頭筋長頭の断裂、周囲炎、亜脱臼、脱臼などもあります。
診断
- 問診
外傷歴、痛みの性状(夜間痛、安静時痛、動作時痛)などを確認します。 - 身体所見のチェック
圧痛部、可動域、筋力のチェック、疼痛誘発テスト(インピンジメント)などを行います。 - レントゲン
変形性変化、石灰沈着を認める場合もありますが、軟部組織である腱板の評価は困難です。
肩峰−上腕骨頭間の狭小化がある場合には腱板が損傷・断裂していると予想されます。 - エコー
腱板の状況、石灰沈着の評価を肩関節を動かしながら行うことが可能です。(動態評価)
また、ドップラーモード(エコー検査)で炎症状態を観察することもできます。 - MRI
動かしながらの評価はできませんが、詳細に腱板を含めた軟部組織の評価が可能です。
腱板損傷・断裂の分類
腱板損傷・断裂には部分的(滑液包側、関節側、腱内断裂)と完全(全層性)があります。
部分的な損傷・断裂
一般的には、腱板損傷は部分的で、腱板断裂は全層性の病態と考えられます。
腱板断裂は損傷サイズによって分類されています。(小断裂、中断裂、大断裂、広範囲断裂)
完全断裂
荷物の持ち上げ、転倒した際の急激な負担が原因で完全断裂してしまう事があります。
また、完全断裂と言ってもブチっと筋腱が切れているわけではなく穴が空いていている程度のこともよくあります。
治療
多くの患者さんは安静保持、投薬や注射、リハビリテーションによる保存的治療を行うことで症状は緩和しますが、筋力低下の改善には外科的治療が必要になることが多いです。
保存的治療
安静保持
三角巾、アームスリングなどを使用して、肩関節の安静を保持します。
肩を使用するスポーツや重労働などは制限が必要な場合があります。
投薬
消炎鎮痛薬や湿布などで痛みの緩和を目指します。
注射
除痛、炎症を抑える目的でステロイド、ヒアルロン酸などの注射を行います。
物理療法
消炎鎮痛処置を行います。
電気治療、超音波、温熱療法などを使用します。
リハビリテーション
急性期の強い痛みが緩和したら、肩甲骨や脊柱、骨盤などの動きを促すリハビリや、残存している腱板の機能をよくするリハビリを開始します。
ただし、リハビリで損傷した腱が治癒することは通常なく、手術が必要になることもあります。
外科的治療
保存的治療で痛みがなかなか取れない場合、肩腱板が完全断裂してしまい筋力低下が顕著な場合には手術による積極的な治療を提案させていただく場合があります。
手術について
手術は小切開で行う手術、内視鏡を使用して行う手術などがありますが、いずれの方法でも、断裂して上腕骨から剥がれてしまった腱板を元の付着部に縫い付けることで修復します。
断裂範囲が大きく欠損部がある場合、完全には修復できないことがあり、部分修復、筋膜でのパッチなどを併用する場合があります。
手術後は修復部の安静を保つためにしばらく装具などを使用することが多いです。
その後、リハビリテーションで肩関節の可動域を広げ、筋出力を上げていきます。
再断裂する可能性はゼロではないため医師、リハビリ担当者と指示をしっかり守りましょう。
整形外科専門医による診断を
肩腱板の損傷・断裂は、肩関節周囲炎(四十肩、五十肩)とよく間違われてしまいます。
どちらも、肩に痛みがあったり、腕が上がりにくいことが特徴です。
肩関節周囲炎は炎症が起こることで症状が起こっているのに対して、肩腱板損傷・断裂は腱板が傷ついてしまっており、そのまま放置すると損傷が悪化、または完全断裂まで引き起こされてしまいます。
肩に痛みがある場合は受診してみましょう
「歳のせいでしょうがない」などと自身で判断をせずに、肩に痛みがありましたら整形外科を受診してみましょう。
また、既に肩関節周囲炎と診断され治療をしているのに、なかなか痛みが取れないという方も、肩腱板の損傷・断裂を疑ってみてください。
エコー、MRIなどをチェックすることで症状の原因がはっきりすることがあります。
当院でできること
- 身体所見、レントゲン、エコー検査からの診断
- 投薬、注射、補装具を使用した保存的治療
- 専門スタッフによるリハビリテーショ
- 手術術後の回復リハビリテーション
診断から治療、その後のリハビリまで患者さんの症状に合わせて対応しておりますので、ご相談下さい。
当院でできないこと
当院では、MRIでの精査、手術加療はできません。
必要であれば専門外来に紹介させていただきます。
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