肘部管症候群とは
肘部管症候群は、尺骨神経障害をきたす疾患の1つで、肘部管で尺骨神経が圧迫、絞扼(しめつけ)、あるいは牽引されることにより障害をきたしている病態です。
支配領域のしびれ、知覚障害、筋力低下などが症状として起こります。
肘部管
肘部管は、肘関節内側(尺側)にある尺骨神経が通過するトンネルです。
関節包と尺側手根屈筋(尺骨頭、上腕頭)の間に張る腱膜(Osborne靱帯)の間にあります。
尺骨神経知覚枝は、環指尺側、小指、前腕尺側を支配しています。
尺骨神経運動枝は、手指、手関節の屈曲、手内筋のほとんどを支配しています。
母指の付け根の筋肉(母指球)は正中神経支配ですが、それ以外は尺骨神経支配です。
発症について
男女比は7:3で男性に多く、60~70代で発症することが多いと報告されています。
スポーツ関連では、投球動作を伴うもので多いと報告されています。
原因
肘部管で慢性的に尺骨神経の圧迫(絞扼性神経障害)、牽引されることで発症します。
- 靭帯や腫瘤による尺骨神経の圧迫(Osborne靱帯、ガングリオンなど)
- 加齢からの肘関節の変形による尺骨神経の圧迫(骨棘など)
- 幼少時の肘周囲骨折後の肘関節の変形(内反肘、外反肘などのアライメント変化)
- 野球、柔道などの投動作を伴うスポーツ、重労働
- 肘関節屈曲時に尺骨神経が亜脱臼し尺骨神経が牽引される(外反肘とも関係)
- その他
正常時との比較
肘関節は正常では軽度外反しています。
15°以上で外反肘、5°未満で内反肘と呼ばれます。
症状
尺骨神経障害の進行により症状が異なります。
初期段階
初期には環指尺側、小指にしびれ、痛みがでます。(長時間の肘屈曲でしびれ)
手根管症候群では夜間症状が目立つことが多いですが、肘部管では目立たないです。
同じ尺骨神経障害でもギオン管症候群とは少し症状の出る部分が異なります。
進行した場合
進行すると手の筋肉が痩せ、変形も起こります。
筋萎縮(小指球、骨間筋(手内筋))や、環小指MP関節が過伸展し、PIP、DIP関節が屈曲(かぎ爪指変形、鷲手)がみられるようになります。
環小指の屈曲障害、母指球を除く手内筋が麻痺して巧緻運動障害が生じます。
画像出典:日本整形外科学会 肘部管症候群
診断
母指球以外の手内筋の萎縮、かぎ爪変形(鷲手)があれば診断可能です。
Tinelサイン
肘内側を軽く叩くと環指尺側、小指にしびれが走れば陽性です。
(肘内側をぶつけた時に手の小指側に痺れが走った経験はありますか?それです。)
しびれ誘発テスト
肘関節の屈曲維持でしびれが出るかどうかをチェックします。
知覚の精査
細いフィラメントなどを使用した特殊検査、2点識別などを行います。
筋力低下
外転、環指、小指屈筋、握力低下をチェックしまう。
筋力低下があると、細かい作業が困難になります。(巧緻運動障害のチェック)
紙引き抜きテスト、Fromentサイン(フローマン)
母指と人差し指で紙をつまみ、反対方向に引っ張る際に母指のIP関節が屈曲したら陽性となります。
レントゲン
肘関節の変形、骨棘形成を確認し、肘部管への影響をチェックします。
エコー検査、MRI
尺骨神経の圧迫、亜脱臼、ガングリオンなどの腫瘤を確認します。
神経伝導速度
感覚神経、運動神経の伝導状況をチェックし左右で比較します。
セルフチェック
- Tinelサイン(肘部管部分を叩くと、しびれや痛みが指先(小指、環指)に響く。)
- 手内筋の萎縮、小指の筋力低下(屈曲低下)がないかをチェックする。
- 環指の橈側の感覚は正常なのに、尺側の感覚が鈍い。
上記症状を自覚された場合は、整形外科医師に相談してください。
治療
保存的治療
3~6ヶ月程度をめどに行います。
投薬
痛み止め、ビタミンB12などがあります。
安静
なるべく肘を曲げないようにします。
また、必要であれば外固定も行います。
リハビリテーション
尺骨神経の滑走性改善トレーニング、筋力、感覚トレーニングを行います。
注射
ステロイド注射を使用して肘部管内の炎症を抑え、肘部管内圧を安定化させます。
尺骨神経周囲を生理食塩水等で液性剥離する(ハイドロリリース)も期待されています。
上記治療で症状が改善しない場合には、手術での加療も考慮します。
外科的治療
尺骨神経を圧迫している靭帯の切離、ガングリオンの切除を行います。
神経の緊張が強い場合には骨を削ったり、神経を前方に移動する手術を行います。
肘の変形がある場合には、変形を矯正する手術を行うこともあります。
手術時の麻酔は、局所麻酔、神経ブロック、全身麻酔いずれでも可能ですが執刀医に確認しましょう。(手術方法にもよります。)
手術を積極的にお勧めする場合
骨折や脱臼などの外傷や腫瘤による尺骨神経障害は早期に手術が必要です。
そのほか、以下に該当する場合、手術をお勧めすることがあります。
- 保存的治療に抵抗性のもの(難治性)
- すでに筋肉の萎縮があるもの(小指球、手内筋)
- 腫瘤病変によるもの(ガングリオンなどが頻回に再発する場合など)
早期発見・早期治療が肝心
筋肉が萎縮する前に治療を行うことが大切です。
状況から尺骨神経障害が強く疑われる場合には神経伝導速度を計測してみることをお勧めします。
当院でできること
- 身体所見、レントゲン、エコー検査からの診断
- 投薬、注射、補装具を使用した保存的治療
- 専門スタッフによるリハビリテーション
- 手術術後の回復リハビリテーション
診断から治療、その後のリハビリまで患者さんの症状に合わせて対応しておりますので、ご相談下さい。
当院でできないこと
当院では、MRIでの精査、神経伝導速度検査、手術加療はできません。
必要であれば専門外来に紹介させていただきます。
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