頚肩腕症候群とは
頚部・肩・腕にかけて痛みやしびれが生じる疾患で、現段階では原因不明の病態です。
レントゲンやMRIなどの画像検査では明らかな異常初見を認めず、頚椎疾患(変形性頚椎症、頚椎椎間板ヘルニアなど)、肩関節疾患(肩関節周囲炎、腱板断裂など)に該当しない場合に医学的な診断としてつけられる疾患名です。
原因がはっきりしない「肩こり」などもこの疾患概念に含まれることが多いです。
社会背景
医学、画像診断の進歩により、それぞれの症状の原因が解明され、原因に基づいた病名がつけられるようになりました。
頚肩腕症候群という病名はあまり使われなくなりましたが、1960年代からの産業技術革新により、作業の機械化が始まりました。
作業の機械化によって、単純な繰り返し作業が広く導入されるようになり、頚、肩、腕を中心とする痛み、こり、しびれを訴える労働者が増加し、社会問題となりました。(キーパンチャー病)
産業衛生学会が、「上肢作業に従事することによって頚肩腕の痛み、こり、しびれをきたす疾患を頚肩症候群」と定義したため、再びこの頚肩腕症候群という診断名が使用されることになっています。
仕事や趣味などで長時間にわたり同一姿勢や単純な繰り返し作業を続けなければならない方、姿勢不良のある方などに生じると報告されています。
原因
以下が原因として想定されています。
姿勢の問題
同じ姿勢での単純作業、首を下に向けた状態でスマホを操作する(スマホ首)ような生活を長い期間継続していると、不良姿勢が固定され、不良姿勢が癖になってしまいます。
具体的には、頚肩腕症候群の方の多くで頭の位置が肩よりも過度に前方に出てきてしまっていたり、顎を突き出すような姿勢になっていたり、肩の前方突出(肩甲骨の外転)が起こっています。
このような状態では、頭から頚部の後方の筋肉が緊張して肩こりのような張り感やひどくなると痛みを伴ったり、場合によっては頭痛なども生じることがあります。
同時に胸椎の後弯増強、腰椎の前弯減少、骨盤の後傾なども来たし、他部位への影響も起こり得ます。
使いすぎ(オーバーユース)
長時間キーボードを使用したり、レジを操作するなどの指先を使用した細かい作業を続けていると、手指の筋肉は疲労します。
そのような状況でお休みせずに作業を継続していると、痛み、こり、ついには腫れなどを起こし、手指の屈曲伸展ができなくなったり、痙攣したりするなどの症状が出てきます。
手指のような小さい筋肉ほど疲れやすく、回復にも時間がかかります。
運動不足
現代社会では、日常生活において運動で心地よく汗をかくというようなことが減ってきています。
特に大きな筋肉(背中や大腿部の筋肉など)を大きく使う頻度は減っています。
筋肉は適度な運動を行うことで、血流を良くし、その力を保つことができるようになっています。
全く筋肉を使わないでじっとしていると、血流が悪くなり、栄養物質の運搬、老廃物の排出などに影響が起こり、廃用性に萎縮していきます。
同じ姿勢を長時間維持し、動きがないのも注意が必要です。(長時間椅子に座りっぱなし、作業環境に無理があるなど。)
小さな筋肉の使いすぎ(オーバーユース)と大きな筋肉の使わなすぎ(運動不足)の関与があるようです。
精神、神経的な要因
人は日々の仕事や生活が楽しく、やり甲斐や生き甲斐を感じている場合には、多少のことには耐えられます。
しかし、以下のような場合には、苦痛に感じたり、集中できないことがあります。
- 自分のやっていることの意味が理解できない。
- 仕事そのものが創意も工夫もいらない単純作業で仕事を嫌々やっている。
- 職場の雰囲気、環境が悪い、家庭に心配事がある。
(いつも緊張して作業している、同僚との関係性が悪い、温度、騒音、空気汚染など)
このような精神的な疲れ(気疲れ)が健康に影響を及ぼし、頚肩腕症候群の発症に関与している可能性も指摘されています。
必要であれば、職場の責任者、産業医などに相談することも考慮が必要です。
その他
稀に脳脊髄疾患や糖尿病による神経症状が原因のこともあるため注意が必要です。
もちろん上記は、個人の体質や年齢などの影響も考慮する必要があります。
症状
症状、部位は個々で多彩で、利き手に出現するとは限りません。
- 頚肩腕のコリ・張り・だるさ、痛み
- 手足の冷え・脱力感・しびれ
- 不眠、イライラ、頭痛、耳鳴り、物忘れ、めまいなどの自律神経症状
症状の現れ方や進みかたは、作業内容、個人により少しずつ異なりますが、まずは手指、手関節、上肢、肩こりやだるさから始まることが多いです。
はじめはだるさとか疲れやすさだった症状が徐々に痛みやうずきとなり苦痛が強くなってきます。
また、運動時のみの症状のこともあれば、安静時にも症状を自覚するなど程度はさまざまです。
診断
- 問診:自覚症状、環境要因のチェックが大切になります。
- 画像診断:レントゲン、MRIなどで確認します。はっきりとした原因を指摘できないのが特徴です。
治療
整形外科的な治療
投薬
消炎鎮痛剤、筋弛緩剤、外用薬を使用して症状の緩和を目指します。
注射
ハイドロリリース、トリガーポイント注射などを行い症状の緩和を目指します。
物理療法
温熱療法、電気刺激療法、マッサージなどを行い症状の緩和を目指します。
リハビリテーション
可動域訓練、筋力強化、ストレッチング、体操、姿勢指導を行います。
硬くなってしまった筋肉は少しのマッサージではなかなか解消しません。
また、マッサージで一時的に改善しても同じ生活を繰り返していると症状は再燃してしまいます。
当院では、医師による注射、理学療法士によるリハビリテーションを行いますが、最終的にはご自身でのセルフケアが重要です。
まずは不良な姿勢で固まってしまった部分の動きを改善していきましょう。
毎日のちょっとしたセルフケアが大切です。
当院リハビリ担当者から個人にあった方法を提案させていただきます。
環境要因への対処
作業環境、職場環境に関して改善が可能であれば職場の担当者、産業医とも相談してみましょう。
以下に例をいくつか挙げてみます。
- レジ打ち作業の場合:台の高さは適正なのか?
- PC作業:モニターの位置は適正か?
- 作業間の休憩時間は適正か?
- 作業環境の温度、湿度、照明は適正か?
- 睡眠状況、食事状況は大丈夫か?
- 適度に運動はできているか?
当院でできること
- 身体所見、レントゲン、エコー検査からの診断(除外診断になります。)
- 投薬、注射を使用した保存的治療
- 専門スタッフによるリハビリテーション
診断から治療、その後のリハビリまで患者さんの症状に合わせて対応しておりますので、ご相談下さい。
当院でできないこと
当院では、MRIでの精査はできません。
必要であれば心療内科を含めた専門外来に紹介させていただきます。
- 変形性頚椎症
- 頚椎椎間板ヘルニア
- ストレートネック(スマホ首)
- 頚椎捻挫(むち打ち損傷)、外傷性頚部症候群、寝違え
- 胸郭出口症候群
- 肘部管症候群
- テニス肘
- ゴルフ肘
- 野球肘
- 肘内障
- 肩腱板損傷・断裂
- 肩石灰沈着性腱板炎
- 肩関節周囲炎
(四十肩、五十肩) - 凍結肩(frozen shoulder)
・拘縮肩 - 頚肩腕症候群・肩こり
- ギックリ腰(急性腰痛症)
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 腰部脊柱管狭窄症
- 脊柱側弯症
- 胸腰椎圧迫骨折
- 腰椎分離症・分離すべり症
- ガングリオン
- ドケルバン病
- ばね指
- 母指CM関節症
- 指変形性関節症(へバーデン結節、ブシャール結節)
- 手根管症候群
- ギオン管症候群(ギヨン管症候群、尺骨神経管症候群)
- 突き指・マレット指
- 膝半月板損傷
- 膝靭帯損傷
- オスグット病
- 変形性膝関節症
- 足関節捻挫
- アキレス腱断裂
- 外反母趾
- 有痛性外脛骨
- モートン病(モートン神経腫)
- 足底腱膜炎
- Jones骨折(ジョーンズ骨折・第5中足骨近位骨幹部疲労骨折)
- 足部骨端症
- 扁平足(flat foot)・開張足
- 関節リウマチ
- 高尿酸血症と痛風発作
- ロコモティブシンドローム
- 骨粗鬆症
- グロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)
- 大腿臼蓋インピンジメント症候群(FAI)
- 股関節唇損傷
- 変形性股関節症
- 大腿骨近位部骨折
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