脚の付け根部分の骨折の総称で、大腿骨頚部骨折と呼ばれることもあります。
骨粗鬆症で骨が脆くなっている高齢者に多い骨折で、高齢化の進んでいる日本では今後も増加することが予想されています。(年間10数万人が受傷しています。)
若年者でも高エネルギー外傷(転落、交通事故など)によってまれに発生します。
受傷後は、歩行困難となることがほとんどで、多くの場合は手術が推奨されます。
骨折部位による分類
骨折した部位で手術方法が異なるため整形外科では下記のように分類しています。
- ①股関節の関節内に生じる骨頭骨折、大腿骨頚部内側骨折
- ②股関節の関節外に生じる大腿骨転子部骨折、転子下骨折(外側骨折)
高齢者において本骨折が生じると、日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)を著しく低下させるだけでなく、生命予後にも影響を与えると報告されています。
(大腿骨近位部骨折を起こした方の5年生存率は多くの悪性腫瘍よりも低いという報告もあります。)
骨折を予防するための骨粗鬆症チェックと治療、転倒予防訓練が非常に重要です。
原因
大腿骨近位部はまっすぐではなく、120~130°の頚体角と10°弱の前捻角を持つ構造です。
人間は立位の際にはその曲がって捻れた大腿骨近位部と股関節で体を支えていますが、曲がった部分には転倒や転落などの外傷時に外力が集中しやすく、まっすぐな部分よりも負担がかかり骨折が起こりやすいです。
また、骨粗鬆症が存在すると、大腿骨近位部の骨梁構造の低下から骨強度、骨質が低下しており、軽微な外傷でも骨折を来すことがあります。
骨折の受傷機転
- 直接打撲(転倒、転落)
- 捻り動作(転倒時など)
- その他、原因がはっきりしないケース(認知症の問題も含む)
実際には、歩行時に骨折して転倒したのか、転倒して骨折したのか不明なケースもあります。
症状
大腿部・股関節(脚の付け根部分)の痛みと歩行困難が症状として挙げられます。
大腿部・股関節部に痛みを自覚され、立ち上がり、歩行ができなくなることが多いです。
上記症状で重篤感があり、救急搬送となるケースが多いです。
例外
不全骨折の状態、骨折部の転位(ずれ)がない状態、骨折部がうまく噛み込んでいて安定している状態の場合には痛みもなんとか我慢できる範囲のために歩行して来院されるケースもあります。
ご高齢の患者様では、認知症が背景にあったり、自分の状況をうまく説明できない方も多く、場合によっては単独で転倒され、数日経過してから、急に歩けなくなったと受診されるケースもあります。
(受傷直後は骨折部のずれが少ない不全骨折タイプだったものが、歩行などでずれて完全骨折に移行し、症状が出た可能性が考えられます。)
関節内骨折は関節包が周囲にあるため出血するスペースが少なく内出血も少ないです。
関節外骨折は受傷時の外力も大きく、内出血も多いため貧血症状など、全身状態に影響が出やすいという特徴もあります。
診断
問診
骨粗鬆症治療歴、外傷歴などをチェックします。
身体所見
痛みの部位、圧痛部位、立位、歩行が可能かどうかをチェックします。
股関節は軽度屈曲し、内旋していることが多いです。
レントゲン
多くはレントゲンで診断可能ですが、骨折のずれが非常に小さい場合にはCTやMRIで精査を行うことで初めて骨折、不全骨折(骨挫傷)と診断されることもあります。
骨頭骨折、頚部内側骨折、頚部外側骨折(転子部、転子下)など詳細に部位判定を行います。
骨盤骨折(恥骨、坐骨、仙骨)からの症状のこともありますが、骨盤骨折の場合には、なんとか歩行が可能なことが多いです。
MRI
レントゲンでは原因がはっきりしない場合にはMRIが非常に有効です。
不全骨折(ひび、骨挫傷)以外に筋挫傷、内出血などもMRIでは描出可能です。
骨折の原因が骨粗鬆症ではなく腫瘍の骨転移だったケースや、骨折を認めず閉鎖孔ヘルニアが症状の原因だったケースもあります。
ただし、MRIには30分程度時間がかかり、その間装置の中で安静を保つ必要があります。
(認知症で安静を保つことが困難な場合には、MRI撮影が困難になる可能性があります。)
血液検査
大腿骨骨折では内出血により貧血症状が出現する可能性があります。
また、手術を行う可能性が高いため、初診時に色々な血液検査を行うことが多いです。
最近では、骨粗鬆症のための血液検査(Ca、骨吸収マーカー、骨形成マーカーなど)も同時に行うことが多いです。
治療
保存的治療
保存的治療でも治療は可能です。
ただし、転位のある骨折の場合、変形治癒をある程度許容する必要があり、骨癒合には長期間の安静が必要となります。
安静期間中に認知症、また、安静にすることで活動量が少なくなり(廃用性)筋萎縮、関節拘縮、心肺機能低下が進行し、運動機能低下、寝たきり、床ずれ、深部静脈血栓症になるリスクが高く、また骨折部の変形治癒から歩行機能の十分な改善は期待できないことが多いです。
全身状態から麻酔が困難など、どうしても手術が受けられない場合には考慮します。
(基本的には受傷時に寝たきりであっても、今後の介護の必要性などから手術をお勧めするケースが多いです。おむつ交換などにも支障が出る可能性があります。)
外科的治療
大腿骨近位部骨折では基本的に手術による治療をお勧めします。
- 関節内骨折では血流の問題から転移がある場合には骨癒合が得られにくいという特徴があり、骨折形態の分類が大切です。手術方法の考慮が必要となります。
- 外側骨折では転位が大きく不安定なことが多いため手術が必要になることが多いです。
手術方法はなるべく変形を少なく骨癒合を目指す骨接合術を行うことがほとんどです。
いずれも、受傷後早期に手術し、早期離床を進めることが非常に大切です。
また、骨粗鬆症のチェック、治療方針決定も入院時に行うことが望ましいとされています。
手術方法
骨癒合を目指す手術と、人工物に置換する手術があり、骨折部位、状況で選択されます。
骨接合術
転位の少ない関節内骨折と外側骨折(転子部、転子下骨折)に対してスクリュー、髄内釘、プレートなどを使用して手術を行います。
頚部内側骨折に骨接合術を行う場合、術後に大腿骨頭壊死という合併症の可能性があり注意が必要です。
(大腿骨頭の血流障害から骨頭部が壊死し、圧壊が起こることがあります。)
人工骨頭挿入術、人工股関節全置換術
関節内骨折で、骨折部のずれが大きい場合、骨頭を栄養する血流が途絶えてしまい、骨折部が骨癒合しても血流状況が改善せずに、後々、大腿骨頭壊死が起こり、骨頭が潰れてしまう可能性が高いと報告されています。
このため、ずれの大きな関節内骨折では骨癒合を目的とする治療ではなく、人工物で置き換える治療が選択されることが多いです。
骨折状況、年齢なども考慮して大腿骨頭側のみを置換する人工骨頭挿入術にするか、臼蓋も含めて人工関節全置換術を行うかは検討されます。
術後のリハビリテーション
いずれの術後も早期から離床・歩行訓練を開始することが非常に大切です。
廃用による筋力低下や血栓症、心肺機能低下などの全身合併症を起きにくくするためです。
手術した病院、リハビリ病院で術直後から数週間行うことになります。
受傷前の歩行レベル獲得を目指しますが、1段階程度落ちることが多いです。
(独歩 → 杖歩行 → 歩行器歩行 → 車椅子移動 → ベッド上運動)
自宅での生活に戻った後もリハビリ継続希望があれば当院でのサポートも可能です。
骨粗鬆症の治療と同時に通院リハビリで運動機能の維持、改善、今後の転倒防止を行いましょう。
大腿骨近位部骨折の予防
大腿骨近位部骨折や脊椎骨折受傷後に、寝たきり、閉じこもりになってしまうことが多く、社会問題となっています。
骨折しないように予防することが最も大切です。
下記の点を意識していきましょう。
- 骨粗鬆症のチェックと骨粗鬆症がある場合には適切な治療を行いましょう。
- 普段から転倒しにくい環境を整え、機能訓練などを行いましょう。
- フレイル、ロコモティブシンドローム、サルコペニア対策も重要です。
(必要であれば上手に介護保険なども使用し、自宅環境を整備することも大切です。)
脆弱性骨折には、大腿骨近位部、脊椎、上腕骨近位部、手関節骨折があります。
新規骨折(ドミノ骨折)の予防
脆弱性骨折の既往があると、次の脆弱性骨折リスクが上がります。(ドミノ骨折)
大腿骨近位部骨折の既往があると、新規脊椎骨折のリスクは1.6倍、反対側の大腿骨近位部骨折のリスクは3.5倍、あらゆる部位の新規骨折の発生リスクは1.65倍と報告されています。
脊椎骨折の既往があると、新規椎体骨折のリスクは7.34倍、大腿骨近位部骨折のリスクは1.22倍、あらゆる部位の新規骨折のリスクは1.93倍と報告されています。
参考:Gehlbach S et al. JVMR(2012)
片側の大腿骨近位部骨折受傷後に反対側を受傷したり、脊椎圧迫骨折、上腕骨近位部骨折、橈骨遠位端骨折を受傷することがよくあります。
転倒を恐れるあまりに全く動かないでいると、廃用による筋力低下、心肺機能低下が進み、ますます転倒のリスクが上がるという悪循環に陥ります。
可能な範囲で予防に取り組みましょう
高齢者では、可能な範囲で見守り下に歩行訓練、散歩などをしていただくのをお勧めします。(ご家族、周辺コミュニティの方々のサポートも必要になります。)
適切な骨粗鬆症治療を行いながら、フレイル、ロコモティブシンドローム、サルコペニアなどの予防に取り組みましょう。
当院リハビリテーションでもサポートさせていただきます。
当院でできること
- 身体所見、レントゲンからの診断
- 投薬、注射、補装具を使用した保存的治療
- 専門スタッフによるリハビリテーション
- 手術術後の回復リハビリテーション
診断から治療、その後のリハビリまで患者さんの症状に合わせて対応しておりますので、ご相談下さい。
当院でできないこと
当院では、CT、MRIでの精査、手術加療はできません。
必要であれば専門外来に紹介させていただきます。
- 変形性頚椎症
- 頚椎椎間板ヘルニア
- ストレートネック(スマホ首)
- 頚椎捻挫(むち打ち損傷)、外傷性頚部症候群、寝違え
- 胸郭出口症候群
- 肘部管症候群
- テニス肘
- ゴルフ肘
- 野球肘
- 肘内障
- 肩腱板損傷・断裂
- 肩石灰沈着性腱板炎
- 肩関節周囲炎
(四十肩、五十肩) - 凍結肩(frozen shoulder)
・拘縮肩 - 頚肩腕症候群・肩こり
- ギックリ腰(急性腰痛症)
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 腰部脊柱管狭窄症
- 脊柱側弯症
- 胸腰椎圧迫骨折
- 腰椎分離症・分離すべり症
- ガングリオン
- ドケルバン病
- ばね指
- 母指CM関節症
- 指変形性関節症(へバーデン結節、ブシャール結節)
- 手根管症候群
- ギオン管症候群(ギヨン管症候群、尺骨神経管症候群)
- 突き指・マレット指
- 膝半月板損傷
- 膝靭帯損傷
- 子どもの成長痛
- オスグット病
- 変形性膝関節症
- 足関節捻挫
- アキレス腱断裂
- 外反母趾
- 有痛性外脛骨
- モートン病(モートン神経腫)
- 足底腱膜炎
- Jones骨折(ジョーンズ骨折・第5中足骨近位骨幹部疲労骨折)
- 足部骨端症
- 扁平足(flat foot)・開張足
- 関節リウマチ
- 高尿酸血症と痛風発作
- ロコモティブシンドローム
- 骨粗鬆症
- グロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)
- 大腿臼蓋インピンジメント症候群(FAI)
- 股関節唇損傷
- 変形性股関節症
- 大腿骨近位部骨折
- 運動器不安定症
- フレイル
- サルコペニア
- 子どもの成長痛
- モヤモヤ血管治療(動注治療)のご案内
- PFC-FD™療法(再生医療、バイオセラピー)のご案内
- ハイドロリリース・プロロセラピー(エコーガイド下)
- 労働災害保険(労災)での受診
- 交通事故での受診
- 第三者行為での受診