運動器不安定症とは?
「高齢化にともなって運動機能低下をきたす運動器疾患により、バランス能力および移動歩行能力の低下が生じ、閉じこもり、転倒リスクが高まった状態」と日本整形外科学会、日本運動器リハビリテーション学会、日本臨床整形外科学会により定義されています。
老年症候群とは?
また、老年症候群は、加齢によって現れる生活上の不具合をきたす病態で、フレイル、サルコペニア、ロコモティブシンドロームなどが含まれます。
以下に簡単に説明します。
- フレイル:加齢に伴い各種環境因子に対する脆弱性が高まった状態
- サルコペニア:筋肉量および筋力または身体能力が低下した状態
- ロコモティブシンドローム:運動器障害のため移動能力が低下している状態
これらは、要介護、要支援が必要となるリスクが高まっている状態であり、相互に密接な関係があると考えられています。
運動器不安定症は、老年症候群が進行した状態と考えられ、さらなる重症化を防ぐために、正しい診断と適切な運動器リハビリテーションなどの介入が大切です。
原因
加齢によって、下肢筋力、バランス能力は徐々に低下し、運動器障害は自覚なく徐々に進行します。
寝たきりの方、運動習慣がない方では、歩行能力の低下が特に進みやすいです。
症状、セルフチェック
- 立ち上がり困難:何かにつかまらないと椅子から立ち上がれない
- 歩行が不安定:ふらふらして歩くときによろけてしまう
- 階段で手すりが必要:手すりがないと階段の上り下りができない
- 転倒しやすい:立ち上がり、歩行時に転びやすくなった
加齢、活動性の低下から骨粗鬆症にもなりやすくなっているため、脊椎圧迫骨折、大腿骨近位部骨折などの脆弱性骨折も起こりやすい状況になっています。
診断
診断基準
「高齢化にともなって運動機能低下をきたす11の運動器疾患または状態の既往があるか、または罹患している者で、日常生活自立度あるいは運動機能が機能評価基準に該当する者」(日本整形外科学会、日本運動器リハビリテーション学会、日本臨床整形外科学会より)と定められています。
このように、運動器不安定症の診断には、運動器疾患が主因であること、定められた機能評価基準に該当することの両者が必要です。(下記参照)
つまり、運動器疾患との因果関係がはっきりしない寝たきり状態の患者さんは運動器不安定症とは診断できません。
高齢化にともなって運動機能低下をきたす11の運動器疾患または状態
- 1. 脊椎圧迫骨折および各種脊柱変形(亀背、高度腰椎後弯・側弯など)
- 2. 下肢骨折(大腿骨頚部骨折など)
- 3. 骨粗鬆症
- 4. 変形性関節症(股関節、膝関節など)
- 5. 腰部脊柱管狭窄症
- 6. 脊髄障害(頚髄症、脊髄損傷など)
- 7. 神経・筋疾患
- 8. 関節リウマチおよび各種関節炎
- 9. 下肢切断後
- 10. 長期臥床後の運動器廃用
- 11. 高頻度転倒者
機能評価基準
1. 日常生活自立度判定基準がランクJまたはAに相当
- ランクJ: 生活が自立している、独力で外出できる
- ランクA: 準寝たきりの状態である、屋内生活では自立できるが、介助なしには外出できない
2. 運動機能検査((1)または(2))
- (1)開眼片脚起立時間:15秒未満
- (2)3m Timed up and go test: 11秒以上
開眼片脚起立時間
靴、あるいは素足で滑らない配慮のもと、ある程度の固さのあるしっかりした床で行います。
転びそうになったら即座につかまれるもののそばで実施します。
両手を腰に当て、片足を床から5cm程あげ、立っていられる時間を測定します。
大きく体が揺れて転びそうになるか、あげた足が床に接地するまでの時間を測定します。
立ち足がずれても終了とします。
1、2回練習させてから左右それぞれ2回ずつ測定し、最もいい記録を使用します。
平均的な記録は、65歳では44秒、70歳では31秒、75歳では21秒、80歳では11秒という報告があり、基準値の15秒は、ほぼ75歳代の転倒群に相当する数値となります。
50歳代までは15秒できない人は全体の10%以下で加齢の影響を受けない結果でしたが、60歳以降からはできない頻度が確実に増加しており、基準値として採用されています。
3m Timed up and go test
椅子に座った状態から立ち上がり、3m先の目印で折り返し、再び椅子に座るまでの時間を測定します。
危険のない範囲でできるだけ速く歩くように指示します。
転倒に対する予防が特に大切で、医療、介護施設職員が付き添って行うなどの予防策が必要な検査です。
70歳では平均9秒程度、80歳では11秒を越すという結果となることが多いようです。
10秒未満のものは自立歩行、11~19秒では移動がほぼ自立、20~29秒は歩行が不安定、30秒以上は歩行障害ありとすることが多いです。
基準値の11秒は、完全な自立歩行ではないと判断できるでしょう。
治療
運動機能低下の原因となった運動器疾患に対する治療がまず必要です。
治療には投薬、バランス体操、筋力強化などのリハビリテーション、手術などがあります。
転倒頻度の減少にバランス体操が有効であること、関節痛、腰痛の軽減に筋力強化や運動が有効であることがわかっています。
工夫して運動することが大切です
腰部脊柱管狭窄症で歩行が大変な場合でも、杖、シルバーカーなどを使用することで歩けるのであれば積極的に歩くようにしましょう。
変形性膝関節症で膝が痛い場合でも、負荷のかかりにくいプール歩行など、工夫して運動することが大切です。
大腿四頭筋を強化する運動としてはSLR運動などがあります。
ロコモ改善のためのロコモーショントレーニング(ロコトレ)も有効でしょう。
整形外科医師、リハビリ担当者から個人に合った運動を提案いたします。
ご相談下さい。
予防
加齢に伴う下肢筋力、バランス能力は徐々に低下し、運動器障害は自覚なく進行します。
臥床は麻薬、運動は万能薬という言葉もあります。
日常的に運動するような習慣を持ち、活動的な生活を実践していただくのが大切です。
また、栄養状態不良からフレイル、サルコペニア、ロコモ、寝たきりと進行するケースもあり、栄養摂取状況のチェックも大切です。
高齢者ではタンパク質摂取が大切です。
当院でできること
- 問診、身体所見、運動機能検査からの診断
- 投薬、注射、補装具を使用した運動器疾患に対する保存的治療
- 専門スタッフによるロコトレを含めたリハビリテーション
診断から治療、その後のリハビリまで患者さんの症状に合わせて対応しておりますので、ご相談下さい。
当院でできないこと
当院では、運動器疾患に対するMRIでの精査、手術加療はできません。
必要であれば専門外来に紹介させていただきます。
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