股関節は臼蓋(受け皿)と大腿骨頭、それらの中間に位置する関節唇から構成されます。
股関節唇は、骨性の臼蓋周囲を環状に縁取る軟骨様の軟部組織です。
股関節の形態異常(FAI、臼蓋形成不全など)、股関節の動き(外傷、オーバーユースなど)によって関節唇に損傷が生じている病態が股関節唇損傷です。
股関節唇損傷を放置すると、将来的には変形性股関節症の移行するリスクが高まる場合があります。
股関節唇の作用
股関節唇は、関節表面を増大させる作用があります。
言い換えると、骨頭の収まりを良くし、衝撃を吸収する作用です。
また、ゴムパッキンのように機能することでシーリング効果が働き、股関節内が陰圧となり、骨頭の求心性保持に寄与しています。
つまり、股関節唇は股関節の安定性に重要な役割を果たしています。
原因
加齢の影響
関節唇は軟骨接合部から変性、断裂、剥離が起こります。
70歳代ではほぼ全例で関節唇に断裂、剥離などを認めるようになるようです。
構造上の問題
FAI、臼蓋形成不全、関節包弛緩などが原因となります。
インピンジメント、荷重時の骨性支持に問題があると、関節唇に負担がかかりやすいです。
外傷、外傷後
交通事故、転落、落下、股関節脱臼、関節内骨折などが原因となります。
スポーツ
ゴルフ、サッカー、ラグビー、バレエ、ランニング、ソフトボールなどのスポーツが原因で生じることもあります。
スポーツ中の片脚支持動作で股関節には体重の約14倍の負荷がかかるという報告もあります。
また、アスリートの股関節痛の約20%は股関節唇損傷が原因とも報告されています。
症状
股関節唇には神経が存在し、損傷を受けると痛みが生じることがあります。
ただし、股関節唇損傷があっても無症状である人も多く見受けられます。
バレリーナ、力士は股関節可動域が非常に広く、股関節唇損傷があることが予想されますが無症状なことが多いです。
具体的には、下記のような症状がみられます。
- 股関節深屈曲で痛み
前外側の股関節唇損傷が多いため、痛みが起こりやすいです。 - 股関節や鼠径部の痛み
大腿骨外側、臀部に痛みを感じることもあります。 - 長時間の立位、座り仕事、歩行で悪化する痛み
- 股関節の詰まり感、引っかかり感、クリック音
増悪時にはロッキング(動かなくなる状態)なども自覚します。 - 股関節のこわばり、可動域制限 など
セルフチェック
日常生活
日常生活では、あぐらをかく、靴下を履く、足の爪切り、立ち上がる、足をくむなどの動作で股関節に痛み、違和感が出ます。
スポーツ活動
スポーツ活動では、股関節の調子が悪くなると、投球動作に問題が出たり、腰部に負担が増えることで腰痛になったりと、股関節以外の部分にも大きな影響が起こります。(運動連鎖)
このような症状が気になるようであれば整形外科医師に相談してみましょう。
診断
身体所見
歩行状態、股関節可動域、疼痛誘発テストでチェックします。
- 前方インピンジメントテスト:股関節屈曲、内旋での痛みを確認します。
- Patrickテスト(FABERテスト):股関節屈曲、外転、外旋での痛みを確認します。
仙腸関節、他の股関節疾患でも陽性になることがあり注意は必要です。
また、股関節の屈曲内旋角度の低下があるか、左右差をチェックします。
画像検査
レントゲンで骨の形態異常、臼蓋形成不全、FAIなどを確認します。
MRI、エコーで軟部組織と関節唇をチェックします。
放射状MRIという特殊な撮影方法を行うこともあります。
股関節への局所麻酔薬注射
身体所見、画像所見では関節唇損傷による症状とは断定できないケースもあります。
症状の原因が関節内病変によるものかどうかを診断するために股関節への局所麻酔薬注射が必要な場合もあります。
エコーガイド下で確実に関節内に注射を行い、痛みが即座に改善する場合は関節唇などの関節内に原因があると診断することが可能です。
治療
痛みに関しては約70~80%が保存的治療で緩和すると報告されています。
保存的治療
- 日常動作指導
しゃがみ込み、あぐらの姿勢など痛みを誘発する動作を制限して安静にします。深いソファ、床にはなるべく座らないようにしましょう。しゃがみ込み、自動車への乗り降り、椅子からの立ち上がり時には手をそえたり、手すりを使用することで股関節への負担を軽減することができます。 - 投薬、注射による治療
消炎鎮痛薬、ステロイド注射、ヒアルロン酸注射があります。 - リハビリテーション
股関節の負担を減らしていきます。体幹機能訓練、骨盤可動性を改善する訓練、臀部の筋力強化などが行われます。
外科治療
関節唇修復術などがあります。
保存的治療でも症状が改善しない場合や、下記の項目に該当する場合には手術を提案させていただくこともあります。
- 股関節の動きの制限が大きく、日常生活が困難な場合
- 日常生活は大丈夫でも、活動性の高いスポーツ競技レベルで痛みが残る場合
- 股関節の構造上、損傷の程度がひどい場合
低侵襲な治療が望まれており、関節鏡を使用した手術なども行われています。
股関節鏡手術について
股関節鏡手術では、股関節を牽引してスペースを確保した後、股関節の中に内視鏡を入れて、股関節唇の状態を評価し、損傷部を確認します。
関節の状態を確認後、骨棘切除、股関節唇を修復します。
直接縫合したり、臼蓋にアンカーで縫い付けたりします。
関節唇がしっかり修復できたら、次に必要であれば大腿骨の骨棘を削ります。
最後は手術のために切開した関節包を縫合します。
FAIで関節の形態異常があると、股関節の軟骨損傷、関節唇損傷が起こりやすいです。
関節唇損傷が起こると、股関節の痛みの他、骨頭の求心性低下、運動時の股関節安定性が低下し、次第に軟骨が破壊され、擦り減り、変形性股関節症に至ると考えられています。
このような経過を少しでも防止するように治療戦略を立てたいものです。
当院でできること
- 身体所見、レントゲン、エコー検査からの診断
- 投薬、注射、補装具を使用した保存的治療
- 専門スタッフによるリハビリテーション
- 手術術後の回復リハビリテーション
診断から治療、その後のリハビリまで患者さんの症状に合わせて対応しておりますので、ご相談下さい。
当院でできないこと
当院では、MRIでの精査、手術加療はできません。
必要であれば専門外来に紹介させていただきます。
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