ギリシャ語で筋肉を意味する「サルコ」と喪失を意味する「ペニア」を合わせた造語です。
主に加齢により全身の筋肉量と筋力が自然低下し、身体能力が低下した状態と定義され、「加齢性筋肉減弱現象」とも呼ばれ、老年症候群の1つです。
2016年10月、国際疾病分類に登録されたため現在では疾患に位置付けられています。
日本人では70歳以上の約7~8%がサルコペニアに該当し、欧米ではもう少し多いと報告されています。
65歳以上の約15%がサルコペニアに該当すると考えられています。
分類
一次性サルコペニア
加齢以外に明らかな原因がないものが、一次性サルコペニアに分類されます。
二次性サルコペニア
二次性サルコペニアは、以下のような原因があるものが該当します。
- 活動量の低下に関連:寝たきり、不活発な生活習慣、体調不良、無重力状態
- 疾病に関連:重症臓器不全、炎症性疾患、悪性腫瘍や内分泌疾患に付随
- 栄養に関連:消化器疾患などによる吸収不良、エネルギー不足、タンパク不足など
原因
筋肉は体内で常に合成と分解を繰り返しています。
若い年代では、筋肉の合成量と分解量がほぼ均一に保たれることで普通の生活を送っていれば筋肉の量は大幅には変動しません。
しかし、高齢になると、筋肉の合成量が減少し、分解量が増加するようになり、普通の生活では筋肉が減りやすい状態になります。
実際には、筋肉量は40歳頃から徐々に減少していく傾向があり、60歳頃からその減少率は加速し、70歳頃から何らかの自覚症状を認めるようになります。
加齢によるサルコペニア(筋肉量、筋力低下)は、何らかの原因により、筋肉の合成量よりも分解量の方が多くなることが主な原因です。
さらにサルコペニアになると筋肉量がさらに減少する悪循環に陥りやすいため注意が必要です。
サルコペニアの悪循環
- ①全身の筋肉量が減少する
- ②歩行が不安定になり、転倒しやすくなる
- ③転倒で骨折して寝たきり生活になったり、活動性がさらに低下してしまう
上記のサイクルを繰り返すことで、さらに全身の筋肉量が減少してしまいます。
筋肉量が低下すると活動量、食欲も低下しやすく、低栄養、フレイル、サルコペニア、ロコモ、寝たきり、要介護状態へと進行しやすいのです。
上記病態は相互に深く関連しています。
高齢者で筋肉が減りやすい原因として想定されていること
- 運動量の低下
寝たきり、外出頻度、活動性の低下が原因となります。 - 栄養不良
タンパク質摂取不足が挙げられます。 - 神経系の問題
加齢により神経系は衰退し、運動ニューロンは減少、速筋が低下しやすいです。 - 慢性的な炎症
- 酸化ストレス
老化で、筋肉の抗酸化能が低下し、酸化ストレスの影響で筋肉の合成低下、分解亢進が起こります。 - ホルモンの減少
多くのホルモン分泌は加齢とともに低下します。
このような原因の中で、日々の習慣で改善可能なものは運動と栄養です。
筋肉量・筋力は適切な運動と栄養により維持・改善することが期待できます。
高齢者はなるべく意識的に運動を行い、食事からのタンパク質摂取量を多めに心がけることが大切になります。
症状
サルコペニアになると、歩く、立ち上がるなどの日常生活の基本的な動作に影響が生じ、介護が必要になったり、転倒しやすくなったりします。
サルコペニアは広背筋、腹筋、膝伸筋群、臀筋群などの抗重力筋に多く認められるため、歩行への影響が大きいようです。
様々な診療科でも注目されている病態です
また、サルコペニアは、各種疾患の重症化や生存期間にも影響するとされ、整形外科のみならず様々な診療科でも注目されている病態です。
サルコペニア女性は骨粗鬆症のリスクが13倍、骨折は3倍多いと報告されています。
サルコペニアは身体的フレイルの主要な要因です。
診断
診断基準(日本サルコペニア・フレイル学会)
①筋肉の力、筋力
- 握力(男性:<28kg、女性:<18kg)
②筋肉の機能
下記ののいずれかで判定します。
- 6m歩行速度:<1.0m/秒
- 5回椅子立ち上がりテスト:≧12秒
- Short Physical Performance Battery:≦9秒
③筋肉の量
生体電気インピーダンス法(BIA法)、もしくはDXA法で計測し、骨格筋指数を算出します。
男性:<7.0kg/m2、女性:<5.7kg/m2(BIA)、女性:<5.4kg/m2(DXA)
①②のどちらかまたは両方に該当し、③にも該当すればサルコペニアと診断されます。
その他の検査
握力
握力低下は死亡率とも関係があると報告され、簡便で安全な検査です。
5回椅子立ち上がりテスト
肘かけのない椅子に座り、両手を交差して胸にあて、足は肩幅程度に開きます。
その状態で椅子から立ち座り動作を5回繰り返し、要した時間を計測します。
SPPB
閉脚立位、セミタンデム立位、タンデム立位で立位バランステストを行います。
その他、アンケート形式でスクリーニングする方法も考案されています。(SARC-Fなど)
セルフチェック
- 指輪っかテスト
ふくらはぎの太い部分を自分の手で囲めるかどうかチェックしてみましょう。 - 手足が細くなった
下腿周径が男性<34cm、女性<33cmでサルコペニア疑いがあります。 - BMI<18.5未満(痩せすぎている)
- 以前よりも転びやすくなった、横断歩道の信号が青のうちに渡りきれない
- 重たい荷物を持ちにくくなった
- 椅子から立ち上がりにくい、階段の手すりがないと上がれない
上記のような症状がある場合には医師に相談してみましょう。
特につまづきは、ご本人の注意力不足が原因と思い込んでいることが多いです。
原因が認知面ではなく、筋力低下の可能性があり注意が必要です。
予防・治療
筋肉を減らさないために適度な運動と栄養バランスの取れた食生活が重要です。
運動
体幹や脚の大きな筋肉などの抗重力筋は加齢により萎縮しやすく、立ち上がり、歩行などの日常生活に大きな影響を及ぼすためトレーニングすることが大切です。
レジスタンス運動が有用で、特に大腿四頭筋やお尻の大殿筋を鍛えること良いでしょう。
具体的には、膝伸展、空気椅子、臍のぞき、膝立状態での腕立て伏せ、椅子からの立ち上がりなどがあります。
個人の状態にあった運動を医師、リハビリ担当者から提案させていただきます。
栄養介入
特にタンパク質、タンパク質の働きを助けるビタミンB6などの摂取が重要です。
サルコペニア対策として、1日で体重1kgあたり1.2~1.5g程度のタンパク質摂取が必要とされています。
タンパク質のみ取っておけば良いというわけではなく、主食、副菜などもバランスよく摂取することが大切です。
運動後のプロテイン、BCAA(ロイシン)摂取で筋肉合成が増加しやすくなるので活用すると良いでしょう。
かかりつけの医師に確認しましょう
糖尿病、腎臓病などの既往がある方ではタンパク質摂取量に注意が必要な場合があります。
かかりつけの医師に確認しておきましょう。
筋肉を増加させる目的であれば、植物性(ソイ)よりも動物性(ホエイ)のタンパク質が有用ですが、ご自身が摂取しやすいものからタンパク質をとるように工夫しましょう。
栄養成分表示に注目してみるのもいいかもしれませんね。
フレイルと低栄養
フレイルとサルコペニアは低栄養との関連が強いことが報告されています。
タンパク質、ビタミン、葉酸の摂取量不足はリスクが高いと報告されています。
身体活動量が低下すると、筋肉量低下(サルコペニア)が起こり、基礎代謝量は低下し、エネルギー消費量は低下します。
身体がエネルギーを必要としないため、食欲、食事量が減少し、低栄養状態がさらに進むという悪循環を繰り返してフレイルは進行していきます。
低栄養に至る原因の1つに口腔フレイルなど、歯科、嚥下の問題もあります。
フレイルサイクル
- ①慢性的な低栄養、疾患、加齢に伴う筋肉量低下などからサルコペニアになる
- ②サルコペニアになると筋力低下から身体機能が低下し、活動量が低下する
- ③活動量が低下すると、エネルギー消費量が低下し、食事量も低下する
再度①に戻り、食事量の低下、加齢に伴う食欲不振があると、慢性的な低栄養につながります。
サルコペニアとフレイルの予防、治療には共通部分が多いです。
フレイルも参考にしてください。
関連:サルコペニア肥満
サルコペニアは筋肉量の減少を意味しますが、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病を悪化させる原因となる肥満との関連が最近注目されています。
サルコペニア肥満は、通常の肥満よりも生活習慣病などにかかりやすく、運動能力、特に歩行能力を低下させ、骨折、寝たきりになるリスクが高まります。
男性よりも女性で筋肉量が少なく脂肪量が多いためサルコペニア肥満になりやすいと報告されています。
体重や体型が変わってなくても注意
若い頃と体重、体型が変わっていなからといって安心できません。
筋肉が減って、脂肪に置き換わっている隠れサルコペニア肥満の可能性があるからです。
また、高齢者だけではなく、食事制限ダイエット、運動不足によって若年者にもサルコペニア肥満予備軍が見られます。
食事制限をすると身体に必要な栄養が減り、筋肉も衰えていきますが、筋肉が減少しても脂肪は燃焼されずに体内に残ってしまうのです。
サルコペニア肥満の基準
- BMI≧25 かつ 筋肉率27.3%未満(男性)、22.0%未満(女性)
- 女性の場合、体脂肪率32%以上で握力が18kg未満または、歩行速度が1.0m/s未満
(BMI=体重(kg)÷身長(m) ÷身長(m)で18.5未満を痩せ、25以上を肥満としています。)
当院でできること
- サルコペニア診断、フレイル診断
- 専門スタッフによる運動療法、食事指導
診断から関連疾患治療、その後のリハビリ、食事指導まで患者さんの症状に合わせて対応しておりますので、ご相談下さい。
- 変形性頚椎症
- 頚椎椎間板ヘルニア
- ストレートネック(スマホ首)
- 頚椎捻挫(むち打ち損傷)、外傷性頚部症候群、寝違え
- 胸郭出口症候群
- 肘部管症候群
- テニス肘
- ゴルフ肘
- 野球肘
- 肘内障
- 肩腱板損傷・断裂
- 肩石灰沈着性腱板炎
- 肩関節周囲炎
(四十肩、五十肩) - 凍結肩(frozen shoulder)
・拘縮肩 - 頚肩腕症候群・肩こり
- ギックリ腰(急性腰痛症)
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 腰部脊柱管狭窄症
- 脊柱側弯症
- 胸腰椎圧迫骨折
- 腰椎分離症・分離すべり症
- ガングリオン
- ドケルバン病
- ばね指
- 母指CM関節症
- 指変形性関節症(へバーデン結節、ブシャール結節)
- 手根管症候群
- ギオン管症候群(ギヨン管症候群、尺骨神経管症候群)
- 突き指・マレット指
- 膝半月板損傷
- 膝靭帯損傷
- オスグット病
- 変形性膝関節症
- 足関節捻挫
- アキレス腱断裂
- 外反母趾
- 有痛性外脛骨
- モートン病(モートン神経腫)
- 足底腱膜炎
- Jones骨折(ジョーンズ骨折・第5中足骨近位骨幹部疲労骨折)
- 足部骨端症
- 扁平足(flat foot)・開張足
- 関節リウマチ
- 高尿酸血症と痛風発作
- ロコモティブシンドローム
- 骨粗鬆症
- グロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)
- 大腿臼蓋インピンジメント症候群(FAI)
- 股関節唇損傷
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- サルコペニア
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