手根管症候群は母指(親指)、示指(人差し指)、中指、環指(薬指)にしびれや痛みが出て、症状が進行すると、母指の付け根の筋肉がやせてしまい(母指球の萎縮)、ものをつまむ動作に支障が出る病気です。
症状
明け方にしびれや痛みが強く出現し、手をふったり、指の曲げ伸ばしをすることで少し楽になることが多いです。
病状が進行すると母指球に萎縮が起こり、細かいものをつまむ動作が困難になります。
実際には
- 母指(親指)、示指(人差し指)、中指、環指(薬指)にしびれや痛みが出る
- 母指球に萎縮が起こる
- 母指と示指で作るOKサインがきれいなマルにならなくなる
- 服のボタンかけ、ペットボトルのふた開けがやりにくくなる(使いにくくなる)
などの症状が現れます。
手根管と正中神経
手根管は手関節部にある手根骨と横手根靭帯で囲まれた伸び縮みのできないトンネルであり、内部には正中神経と指を動かす腱(屈筋腱)が走行しています。
正中神経の役割
- 母指、示指、中指、環指の母指側半分までの掌側の感覚を支配
- 前腕の回内(前腕を捻って掌を下に向ける運動)、手関節屈曲、手指の屈曲、母指球筋を支配
→ 手にとって最も重要な神経で、指先の感覚と巧緻性(手の運動)に深く関与します。
正中神経に問題が起こる原因
何らかの理由で、手根管の内圧が上がることにより正中神経が圧迫されることで症状を起こすと考えられていますが、その何らかの理由が現状ではまだ明らかにはなっておらず、特発性手根管症候群と呼ばれます。
原因がはっきりしている病態としては骨折後の変形、手根管内の腫瘤などもあります。
予想されている原因
- 加齢:患者さんは50代、60代の方が多いため
- ホルモンバランスの変化:妊娠・出産、更年期の女性に多いため
(手根管内を走行する腱の滑膜性腱鞘のむくみが原因とも) - 環境因子:職業、スポーツ、生活習慣
手関節を酷使するような仕事・スポーツをしている方、最近では、スマホやパソコンの長時間使用も関係していると報告されています - 特定の基礎疾患:透析中、糖尿病で治療中の方(アミロイドの沈着、血流の問題)
検査・診断
セルフチェック可能な方法
- ティネルテスト:手根管部分を叩くと、しびれや痛みが指先に響きます。
- ファーレンテスト:手関節を直角に掌屈し、左右の手背部を合わせて保持し、1分以内にしびれや痛みが悪化するかどうかをチェックする(誘発テスト)
- 筋萎縮、母指球の筋力低下(ピンチ力低下)をチェックする
上記症状を自覚された場合は、整形外科医師に相談してください。
また、最近では手根管症候群を検知するスマホゲームも開発され話題となりました。
(参考:国立研究開発法人 科学技術振興機構:手根管症候群を検査するスマホゲームを開発~機械学習で親指の動きから推定、早期診断へ~)
整形外科、手の外科専門外来で行う方法
- エコー検査:正中神経の圧迫程度、可動性(指屈筋を動かした時)、腫瘤をチェック
- 知覚の精査(細いフィラメントなどを使用した特殊検査、2点識別など)
- 神経伝導検査(微弱電流を流して神経の伝達スピードを調べる検査)
治療
症状の程度で選択していきます。
① 症状が軽い場合
投薬、装具、リハビリテーションによる保存的治療
まずは動かさずに安静にして手根管内圧を安定化させます。
装具を使用し、手関節を固定して安定させます。夜間のみ固定することも有効です。
痛み止め、ビタミンB12製剤などを使用することもあります。
リハビリテーションで正中神経の滑走性の改善、屈筋腱周囲の炎症の沈静化も有効です。
② 症状がやや強い場合:注射による治療
ステロイド注射を使用して手根管内の炎症を抑えることで手根管内圧を安定化させます。
正中神経周囲を生理食塩水等で液性剥離する方(ハイドロリリース)も期待されています。
上記治療で症状が改善しない場合には、手術での加療も考慮します。
③ 手術
- しびれや痛みが強い方は、横手根靭帯を切開し、手根管を解放して正中神経の圧迫を解除します。
- 症状が進行し、ものをつまむ動作がうまくできない方には、腱を移行して、萎縮してしまった筋肉の代わりをさせる手術を行います。(対立再建術)
手術を積極的にお勧めする場合
- 保存的治療に抵抗性のもの(難治性)
- 母指球に萎縮があるもの
- 腫瘤病変によるもの
当院でできること、できないこと
- 身体所見、エコー検査からの診断
- 投薬、注射、装具を使用した保存的治療
- 専門スタッフによるリハビリテーション
- 手術術後の回復リハビリテーション
診断から治療、その後のリハビリまで患者さんの症状に合わせて対応しておりますので、ご相談下さい。
当院では、神経伝導速度などの専門検査はできません、必要であれば専門外来に紹介させていただきます。
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