難治性の肩関節拘(凍結肩:frozen shoulder)に対して、エコーガイド下に頸椎神経根ブロック(C5,6,7)を行うことで肩を含めた上肢の麻酔を行い、非観血的関節受動術を行うことをサイレントマニピュレーションと呼びます。
この手技が確立される前は入院し、観血的な手術、関節鏡による手術が必要であった難治性の肩関節拘縮(凍結肩:frozen shoulder)を入院することなく外来で治療することが可能になりました。
原因
肩関節の拘縮は肩の炎症を繰り返すことで発症します。
関節包という上腕骨と肩甲骨をつなぐ袋が硬くなってしまうことで、肩関節の著しい可動域制限と夜間痛などが特徴的です。
リハビリ等の保存療法では2~3年で治癒するという報告や、7~8年治療しても50%で疼痛と可動域制限を残すという報告もあり、闇雲な保存療法では改善が見込めないことが多いです。
治療の流れ
⓪合併症等の確認
骨粗鬆症による骨折のリスク判定、心疾患、糖尿病等の合併症の確認を行います。
50歳以上の女性、70歳以上の男性、ステロイド治療歴、骨脆弱性骨折の既往がある場合には事前に骨密度、血液検査などで確認することをお勧めします。
また、糖尿病患者様ではサイレントマニピュレーションの効果が限定的なケースもあり、手術加療をお勧めする場合があります。
①頚椎の神経根を局所麻酔薬でブロック
超音波ガイド下に頚椎の神経根(C5,6,7)を局所麻酔薬でブロックします。
麻酔の効果発現まで20~30分待ちます。
(麻酔が十分効果を発現するまでの待機は、呼吸に影響する可能性があるため仰臥位ではなく座位とします。)
麻酔効果が得られると、肩関節の感覚や運動機能が一時的に麻痺します。(半日程度)
- 注意: 麻酔後、半日程度は上肢に力が入らない状態になります。自動車、自転車の運転はできません。
②サイレントマニピュレーション(悲観血的関節受動術)
麻酔がしっかり効いていることを確認後に受動術を行います。
肩関節を他動的に動かすことで、関節包が破れ、肩関節が動くようになります。
手技に関しては色々な報告がありますが仰臥位、側臥位、伏臥位など体位変更を行いつつ関節包を全周性に破断していきます。
その際、疼痛はありませんがピキピキ、バキバキと関節包が破れる音がなります。
骨折してしまっていないか心配になるとは思いますが、適切な手技では骨折するリスクは低いため過度に不安にならないでください。
③サイレントマニピュレーション後
エコーで腱板、滑走性の確認を行い、術後の炎症対策として関節内にステロイド注射を行います。
④骨折の有無を確認し、帰宅
三角巾固定を行い、念のためにレントゲンで骨折がないことを確認し帰宅します。
当日は麻酔が切れてくると痛みが出てくることがありますが、多くは内服でコントロールできる痛みです。(なるべく早く消炎鎮痛薬を内服して下さい。)
夜間痛はその日から改善することが多いです。
早期からリハビリに取り組んでいただき、肩関節の動きの回復を目指します。
期待される効果
可動域改善と疼痛改善が期待されます。
危険性、起こりうる合併症
出血
圧迫により止血が得られることが多いですが、出血が多い場合には追加の処置や入院が必要になる可能性があります。
(内出血は4~8%の症例で生じるとされています。)
神経、血管損傷
注射や施術に伴い神経血管、頚椎神経腕神経叢損傷を生じる可能性が0.5~2.0%あると報告されています。
神経を損傷するとしびれや疼痛、筋力低下などの神経症状が出現することがあります。
神経症状が出現した場合には時間の経過で改善することが多いですが、症状改善に時間を要したり、症状が残存することもあります。
感染
消毒し、清潔操作を行いますが、創部感染を生じることが0.5~1.0 %あると報告されています。
抗生物質などの追加の治療が必要になることがあります。
アレルギー
注射で使用する薬剤でアレルギーなどをきたすことがあります。
軽度の場合は経過観察で改善する場合が多いですが、重篤なアレルギーが約0.01%の症例で生じると報告されており、出現すると命に関わることもあるため、治療が必要になります。
局所麻酔中毒
注射で使用する局所麻酔の量は最高でも20ml程度です。
局所麻酔薬の極量は薬剤の種類により多少異なりますが、50ml程度のことが多いです。
局所麻酔中毒は一般的には起こりにくいですが、約0.1%の症例で起こると言われております。
点滴を使用し症状改善することが多いですが、場合によっては入院が必要になることもあります。
骨折・脱臼
授動術を行う際に上腕骨などの骨折や肩関節脱臼を引き起こすことが0.4~1.0%あると報告されています。
場合によっては手術が必要になることもあります。
その他
その他、予測できない合併症が起こることがあります。
その際には最善と考えられる処置を行います。
場合によっては他科の医師と相談して対応に当たることがあります。
- 変形性頚椎症
- 頚椎椎間板ヘルニア
- ストレートネック(スマホ首)
- 頚椎捻挫(むち打ち損傷)、外傷性頚部症候群、寝違え
- 胸郭出口症候群
- 肘部管症候群
- テニス肘
- ゴルフ肘
- 野球肘
- 肘内障
- 肩腱板損傷・断裂
- 肩石灰沈着性腱板炎
- 肩関節周囲炎
(四十肩、五十肩) - 凍結肩(frozen shoulder)
・拘縮肩 - 頚肩腕症候群・肩こり
- ギックリ腰(急性腰痛症)
- 腰椎椎間板ヘルニア
- 腰部脊柱管狭窄症
- 脊柱側弯症
- 胸腰椎圧迫骨折
- 腰椎分離症・分離すべり症
- ガングリオン
- ドケルバン病
- ばね指
- 母指CM関節症
- 指変形性関節症(へバーデン結節、ブシャール結節)
- 手根管症候群
- ギオン管症候群(ギヨン管症候群、尺骨神経管症候群)
- 突き指・マレット指
- 膝半月板損傷
- 膝靭帯損傷
- 子どもの成長痛
- オスグット病
- 変形性膝関節症
- 足関節捻挫
- アキレス腱断裂
- 外反母趾
- 有痛性外脛骨
- モートン病(モートン神経腫)
- 足底腱膜炎
- Jones骨折(ジョーンズ骨折・第5中足骨近位骨幹部疲労骨折)
- 足部骨端症
- 扁平足(flat foot)・開張足
- 関節リウマチ
- 高尿酸血症と痛風発作
- ロコモティブシンドローム
- 骨粗鬆症
- グロインペイン症候群(鼠径部痛症候群)
- 大腿臼蓋インピンジメント症候群(FAI)
- 股関節唇損傷
- 変形性股関節症
- 大腿骨近位部骨折
- 運動器不安定症
- フレイル
- サルコペニア
- 子どもの成長痛
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- サイレントマニピュレーション(非観血的関節受動術)
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