関節軟骨の質の低下(変性)や股関節で損傷が起こり、経時変化により、組織の炎症(痛み、滑膜炎、水腫など)、骨変化(関節の変形、可動域制限など)が生じた病態です。
レントゲンによる本邦での有病率は1~4.3%と報告されています。(120~510万人)
また、男性は0~2%、女性は2~7.5%と、女性に多いという特徴があります。
原因
股関節は、骨盤と下肢を連結し、体重を支える重要な関節です。
股関節に対する力学的な負荷、構造上の問題により関節軟骨の損傷、変性が起こり、それが修復されずに組織の炎症(痛み、滑膜炎、水腫など)、骨変化(関節の変形、可動域制限など)が生じます。
股関節症の種類
原因がある病態(続発性)と原因がはっきりない病態(原発性)があります。
続発性股関節症(原因があるもの)
臼蓋形成不全、発育性股関節形成不全など、小児・発育期疾患の後遺症が主な原因です。
股関節脱臼後などの外傷後も含まれ、全体の80%程度を占めており、女性に多いと報告されています。
原発性股関節症(原因がはっきりしないもの)
高齢化社会となり、特に原因となる病気、外傷歴がなくとも加齢により変形性股関節症を発症することがあります。
肥満などの生活習慣、加齢による軟骨の変性が関与すると考えられます。
想定されている原因
- 力学的な負荷:スポーツ、労働、交通事故などでの外傷、過剰な負担
- 構造上の問題:臼蓋形成不全、発育性股関節形成不全
- 遺伝的な要因
症状
股関節の痛みと立位、歩行を含めた機能の障害が段階的に生じてきます。
前期症状
関節軟骨はまだすり減っていませんが、構造上、変形性股関節症になる可能性が高い状態です。
臼蓋形成不全、発育性股関節形成不全があり、力学的負荷に弱い状態となっています。
初期症状
立ち上がり、歩き始めに下肢の痛みを自覚し、歩行時に痛みは緩和されます。
痛みは股関節のみではなく、太ももや臀部に感じることもあります。
中期症状
歩行や動作中の痛みが強く、靴下を履く動作、足の爪切り、正座、和式トイレが困難となります。
長時間の歩行、階段昇降が困難となり、家事にも支障をきたします。
日常的に手すり、杖の使用が必要になってきます。
末期症状
股関節が真っ直ぐ伸びなくなり、下肢が外旋する(外側に向かって回る)ようになります。
この症状を、屈曲外旋拘縮といいます。
また、下肢の長さに左右差が生じ、患側下肢が短くなります。
下肢の筋力が低下し、臀部、大腿の筋萎縮も起こることで、下肢が痩せてきます。
診断
問診、診察、レントゲンなどの画像検査から診断を行います。
- 診察
特徴的な歩行、痛みを誘発するテスト、可動域制限、筋力低下などをチェックします。 - レントゲン
臼蓋形成不全、大腿骨近位部の変形(骨頭の扁平化)、関節裂隙の狭小化(軟骨のすり減り)、骨の位置関係(骨頭の側方移動)軟骨下骨の硬化、骨嚢胞、骨棘形成などをチェックします。
骨嚢胞とは、軟骨の痛んだ部分から関節液などが骨に侵入し、骨溶解が起こり、空洞ができてしまう病態です。
最終的には体重がかかる部分(荷重部)の関節軟骨は消失し、その下にある軟骨下骨が露出します。
レントゲンでは骨と骨が接触しているように見えます。 - CT、MRI
レントゲンでは評価できない股関節周囲筋の萎縮、水腫なども評価できます。
術前など、必要があれば行います。
セルフチェック
- 起き上がり、立ち上がり、歩き始めなどに大腿周囲に痛みが出る
- 仰臥位(仰向け)で、膝は痛くないのに膝裏が浮いてしまう(股関節の伸展不十分、屈曲拘縮)
- 足の爪切り、あぐら、お姉さん座りが大変になった
- 歩行のバランス変化(骨盤のぐらつき、ふらつき)をご家族に指摘された
このような症状があれば整形外科医師に相談してみましょう。
治療
治療方針は患者さんの自覚症状、年齢、活動性などを中心に考えていくことになりますが、変形性股関節症の進行具合も治療方針決定に大きく関与します。
保存的治療
生活指導
まずは負担を減らしましょう。
関節の変形は基本的には治りません。
本症と診断された場合には、負担を減らして大事に使うようにすることが大切です。
すり減った軟骨を元通りに戻したり、変形した骨をもとに戻す治療は現時点でありません。
治療の目標は元通りに治すことではなく、症状の緩和と変形の進行を抑制することになります。
初期症状であれば、痛みが出る運動、作業、肢位などを確認し、日常生活動作と痛みを悪くしない体の使い方を学習し、実践することが大切です。
また、心理的な抵抗がなければ杖の使用も考慮しましょう。
原則は痛みのある股関節と反対の手で杖は使用します。
投薬
痛み止めの使用も可能ですが、できれば頓服での使用が望ましいです。
痛み止めを使用して痛みが取れると、逆に無理な姿勢をしてしまったり、無理に動いてしまって、変形が進んでしまう可能性があります。
ダイエット
肥満があるようであれば負担軽減のためにダイエットも考慮しましょう。
運動療法(リハビリテーション)
痛みが強くなるとどうしても歩行などの運動量、活動性が低下し、筋肉が衰えてしまいます。
可能であれば、水中歩行や水泳など、水中運動をやっていただくことをお勧めします。
水中では浮力が働くことで膝、股関節の負担は軽減されます。
筋力強化、ストレッチなどを適切に行うことで関節が安定すると、症状の緩和、病態の進行抑制に効果が期待できます。
貧乏ゆすり(健康ゆすり)にも効果がありそうです。
運動療法はそれ以外にもありますが、痛みを誘発する可能性があるため、適切な強度、頻度から慎重に開始し、徐々に強度を高めることがポイントです。
当院では、リハビリ担当者から個人に適切な運動の提案もさせていただきます。
再生医療
再生医療には、下記の治療があります。
- PRP:抹消血液中の血小板分画を抽出して関節内に投与する治療
- 骨髄細胞、滑膜細胞、脂肪細胞を事前に採取、細胞を培養し、関節内に移植する治療
再生医療法の認可を受けた施設で行うことが可能です。(自費診療)
外科的治療
保存的治療による効果が不十分で日常生活にも支障があるケースでは外科的治療も考慮されます。
年齢、変形の進行度などから術式は選択されます。
初期・若年では骨切り手術、末期・高齢では人工股関節置換術が選択されることが多いです。
関節鏡手術
主に損傷軟骨のクリーニング、関節唇の処置、インピンジメント部の処置を行います。
骨切り手術
関節を温存する手術(臼蓋側、大腿骨側)です。
臼蓋形成不全に対し、関節軟骨障害が軽度なうちに手術をお薦めする場合もあります。
術後は骨癒合までは安静期間が必要で、将来的には人工関節に移行する可能性があります。
人工関節置換術
関節を人工物(インプラント)で置き換える方法です。
人工関節は痛みをとる効果と機能改善効果は非常に優れています。
筋腱を温存する方法や脱臼しにくい方法など手術手技も改良され、安心して早期に社会復帰することが可能になっています。
耐用年数も飛躍的に改善し、30年以上になっているようです。
人工股関節術後に骨盤底筋群の緊張が正常化し、泌尿器症状が改善したというケースの報告もあります。
手術合併症
脱臼、感染のリスク、深部静脈血栓症(DVT)があります。
手術をお勧めするケース
- 保存的治療に抵抗性で、安静時の痛みのコントロールが困難な場合
- 痛みが原因で遊びに行けない、外出すらしたくないなど、歩行に支障が出ている場合
- 変形が高度で、手術時期を遅らせることにより、人工関節の機種選択、骨移植の必要性などに影響が出て、手術手技の難易度が上がり、ご本人の負担が非常に増えると予想される場合
- 脚長差、負担状況が影響し、罹患股関節側とは反対側の膝が痛くなってきた場合
手術に関してよくある質問
入院期間は?
手術施設、術後経過にもよりますが、一般的には創部が安定する2週間程度は入院期間が必要なことが多いです。
担当医とも相談が必要です。
術後脱臼の可能性は?
人工股関節術後に脱臼するリスクはゼロではありませんが、手術手技の改善によりリスクはかなり減っていると考えられます。
担当医にも確認しましょう。
手術に輸血は必要?
術前に自己血を保存しておいたり、術中に回収血を使用したりすることで輸血する頻度はかなり減ったとは思いますが、股関節手術は骨盤を操作するため出血量が多くなりやすく、輸血が必要になる可能性はあります。
術後のリハビリは大変ですか?
人工股関節術後はよほどの合併症がない限り、翌日から歩行訓練が開始されます。
徐痛効果は非常に良いためスムーズにリハビリが進むことが多いです。
当院でできること
- 身体所見、レントゲンからの診断
- 投薬、補装具を使用した保存的治療
- 専門スタッフによるリハビリテーション
- 手術術後の回復リハビリテーション
診断から治療、その後のリハビリまで患者さんの症状に合わせて対応しておりますので、ご相談下さい。
当院でできないこと
当院では、MRIでの精査、手術加療はできません。
必要であれば専門外来に紹介させていただきます。
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- 頚椎椎間板ヘルニア
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